2023年2月1日(水) 16時間20分 距離25.7km 累積標高±1,825m
本名駅奥除雪終了点 (3:30) – 尾根乗越 (5:00) – 小鍋又沢出合 (6:20) – 大石田沢右岸尾根取付 (7:30) – ●996m (11:00) – ●1128m (11:50) – 貉ヶ森山 (12:50) – ●1128m (13:40) – ●996m (14:10) – 大石田沢右岸尾根取付 (16:00) – 小鍋又沢出合 (17:05) – 尾根乗越 (18:50) – 本名駅奥除雪終了点 (19:50)
メンバー : 3人(Waka, Kさん, tuffさん)
天気 : 晴れ、午後より雪、夕方よりみぞれ雪・雨
今日はいつもの山仲間Kさんと、初めましてのtuffさんと山スキー。tuffさんの記録はネット上でしばしば拝見していた。私たちと同様、南会津周辺の静かな山が好きな人だ。いつか山をご一緒したいと思っていたら、いつの間にやらKさんが下界でお会いし、サイゼリヤでお茶会を開催して山談義に花を咲かせていたらしい。笑
私とKさんがちょうど貉ヶ森山行きたいねという話をしていて、それにtuffさんを誘ったらどうか、という事になり、声をかけたら、行きます!とのことで話はまとまった。
今回の山行は私にしてみたらかなりハードだった。初顔合わせでこれはキツ過ぎたが、tuffさんは喜んでくれたようで良かった。
山行記録
当日は3:00に除雪終了点集合。私たちは前日昼過ぎに自宅を出発したので、充分な睡眠が取れたがtuffさんは仕事終わりに直行。30分の仮眠のみで現地に現れた。流石に気にかかり、「今日はユルめで貉ヶ森山は天気の良さそうな明後日に変更でも良いよ。」と提案したら「いや、大丈夫です!」とのこと。何度も聞くが、「本当に大丈夫。」とのこと。
無理していないか心配しつつもtuffさんがそういうならと支度を済ませて暗闇の中3:30出発。
意外と雪はフカフカで脛程度のラッセルが続く。tuffさんが代わりますよーと言ったので先頭交代。その途端、歩くスピードが変わった。tuffさん早い!センター幅95mmの板を履いてズンズン歩いてゆく。まるで雪の上など歩いていないかのようなスピードだ。tuffさんのラッセルパワーで調子良く進んでゆく。
4:40、CO550m付近で坂瀬川左岸から右岸へ渡る。沢床は所々穴が空いているが問題ない。対岸の尾根を登り返して5:00乗越到着。まだまだ辺りは真っ暗だ。予定している沢筋は闇夜に吸い込まれており状況が分からない。尾根筋の下降ルートの偵察に行ってみたがかなり痩せ尾根だったのでやはり沢筋に滑り込むことに決めた。
5:20、暗闇滑降は全員が初経験である。出だしは傾斜がやや急だ。自然とスピードが出てしまうが、周辺の障害物がよく見えないため、恐怖に駆られる。丁寧にスピードを殺して降りてゆく。傾斜が緩むと、案外楽しいパウダー滑降が待っていた。暗闇滑降も悪くないな。と思った。
次第に沢型がハッキリしてきてトラバースするように滑っていく。すると、左岸を先行していたKさんが、誤って沢穴にハマってしまった。幸いにも沢まで落ちることは免れたようだ。私とtuffさんは5m程引き返して右岸からトラバースをして進む。どうにか自力で脱出したKさんと無事に合流した。
傾斜がほとんどなくなったので、シールを張り付けて再出発。5:55小鍋又沢と合流した。見れば広々と沢が口を開けておりとても渡渉できそうにない。計画時にKさんが「小鍋又沢はきっと埋まっているよ!」と言っていたけど、全然埋まっていない。
とりあえず降りてきた沢を右岸から左岸へ、スノーブリッジを渡る。小鍋又沢左岸から渡渉ポイントを探ってゆくと、渡れそうな部分が1箇所あった。では次が私が犠牲になるぞ!と先行する。しかし近づいてみたところスノーブリッジの登り返しが雪壁だった。板を脱いでステップを作ろうとしたら、ズボボボ!と足場が崩れ股下までハマった。Kさんに続き次は私が沢に落ちかけている。というか下手に動いたらスノーブリッジ崩しちゃうかも。笑
後ろに来たtuffさんがストックを置いて足場を作ってくれて、どうにか私も板を履き直すことができた。
tuffさんが、「ここなら行けるかも。」と私のハマった場所から沢床の積雪部分にもう一段降りた。そこから板を脱いでの渡渉を実行。確かにその部分だけ水が浅い。tuffさんが対岸をラッセルで登り返し、見事に道が切り開かれた。
小鍋又沢右岸を下ってゆく。林道本名室谷線まであと少し。次第にぼんやり夜が明けてくる。
6:20、厳冬期の本名室谷線に到着した。まさかこの時期にここへ来れるとは。感慨深いものがある。まだアプローチの段階であるが、私の心はすでに満たされつつあった。
小休止を挟み、次は大石田沢右岸尾根の取付を目指す。霧来沢の渡渉は懸念事項だ。出発前にKさんが「大丈夫!霧来沢は河原だからー。埋まってるよ。笑」なんて楽観的なことを言っていたが、見下ろす沢筋は深い場所にある上、ところどころに瀞があり一筋縄では行かなそう。当然埋まっていない。
沢を横目に歩いていたら、なんと一頭の鹿が沢の中をジャブジャブ歩いているのを目撃した。その鹿はさらに遡上してゆき今度は瀞を泳ぎ始めた。寒中水泳をしている!初めて見る光景に興奮した。
いよいよ大石田沢右岸尾根が近づいてきた。そろそろ渡渉しなければいけない。ちょうど林道の高度が低くなったところで沢に寄る。残念ながらスノーブリッジは見る影もなかった。
7:10、男2人は素足渡渉、私はビニール袋を履いての渡渉。膝下くらいまでの深さがあり結構流れが強かった。帰りもこれを渡らなければいけないのか…。
7:30、ようやくスタート地点に到着した。気づけばすっかり日は昇っていた。いよいよ待望の大石田沢右岸尾根を登る。もう核心部は越えたはず。あとは登るだけだ。
登り始めて広がったのは、それはそれは美しい尾根だった。本当に会越国境なの?と思うほどに優しく、穏やかな尾根が続く。
積雪は脛〜膝ほどの深さまであるが、tuffさんは相変わらず雪なんて無いかのようなスピードで進んでゆく。あれ、もしかしてtuffさんてラッセルモンスターかな?
美しき尾根。私も時々ラッセルを交代して、皆で協力して道を作ってゆく。御神楽岳や前ヶ岳南壁が見えた時は感動した。
登るほどに展望が開けてゆく。雪庇の出来方が複雑で、左右に避けながら順調に昇ってゆく。北側斜面は日射が少ない影響か、カチカチなところが多い。
それは突然訪れた。痩せ尾根。目の当たりにした瞬間、マジかぁと思った。先程の広い尾根は数少ない優しさの一面に過ぎない。やはり会越は会越だった。
止むを得ずシートラーゲンに切り替える。tuffさんが先行してラッセルしてくれる。ズボズボと腿辺りまで沈み込む。
次第に積雪が深くなってゆく。しまいにはtuffさんが荷物を下ろして空身ラッセルを始めた。
その先に立ち塞かるは巨大な雪庇により作り出されたギャップ。ステップを作ろうとするも、雪の中に藪が潜んでおり掻いても掻いても呆気なく崩れるのみ。
少し立っているが右側の藪をゴボウで無理やり登ることにした。なんか急に泥臭い沢登りをやってる気分になってきたぞ。笑
私が藪壁の乗り上げに苦戦していたら、tuffさんが上方からウィペットで引っ張り上げてくれた。なんと頼りになる年下か…。
ここで1時間くらい時間を費やしてしまった。ようやく突破した時はホッとした。もうこんな場所が現れなければ良いけど。
距離にして約400mの痩せ尾根を経て、ようやくスキー板を履くことが出来た。
ちょこちょこ細い尾根が出てくるものの細かくキックターンして登ってゆく。板を履いているだけで機動力は格段に増す。やはりスキーはすごい。
11:00、標高点996mまで上がるとようやく安心感のある尾根が続くようになる。アップダウンの先に、まだ貉ヶ森山は見えない。高度を上げたら雪面がウィンドパックされたのでラッセルから解放された。
Kさんが「タイムリミットを決めよう。」と言った。12時?13時?と聞いてきた。私はまだタイムリミットを決めたくなかった。出来れば山頂へ行きたい。言葉を濁して「まぁもうちょっと様子見かな〜。」と答えた。
あまりのんびりしている時間はない。一生懸命足の回転率を上げる。私が一番体力が無いから、山頂を目指すのなら一番頑張らなければいけない。いよいよ前方に貉ヶ森山が見えてきた。
貉ヶ森山から落ちている大石田沢の斜面が魅力的に見えた。帰りはあそこを滑れないものか。一瞬考えるが、やっぱりダメだ。日帰り装備で突っ込んで、何かあったら詰みそうだ。Kさんとtuffさんも同じことを考えていたようだ。やっぱり滑りたくなるよね。笑
いよいよ最後の登りに差し掛かる。標高差は約150m、時刻は12:20。
13:30には山頂へ到着出来そうだ。Kさんとtuffさんもやる気充分だ。よし、最後のひと踏ん張りだ。
美しいブナの森を登ってゆく。足元はパックされたモナカのような雪質になった。ミシリと沈むので少し疲れる。あと少し。
12:50貉ヶ森山登頂!やった、ついに来た!憧れの貉へ辿り着いた。
一等三角点のある貉ヶ森山は360度素晴らしい展望だった。
苦しかった。もう2度とこの尾根は登りたくない。けどこの展望を眺めてまた厳冬期に会越国境を歩きたくなった。
風が強いので手早く記念撮影をして滑降準備。まだ油断は出来ない。帰りも果てしなく長い。
貉ヶ森山から一気に滑り降りる!予定が…、私の板がまるで滑らない。ひっくり返したら凍っている。あぁさっきちゃんと確認しておけば良かった。スクレーパーでガリガリ削ってロスタイム。みんなごめん。
気を取り直して滑降。パックされた雪は私には滑りづらい。今日一日懸命に動かした足はとうに疲れ果てていることもあり、いつも以上に不恰好な滑りとなった。
それでもスキー滑降は早い。すぐにコルへ到着した。シールを付けて登り返す。
この後はアップダウンの細尾根が続く。板を外せばラッセル必須なのでシール滑降をする。急斜面が多いので難儀した。私は斜滑降&キックターンで高度を下げる。自信を持って滑りたいところだが、制動出来ずに痩せ尾根から飛び出してしまったら怖い…。先行がKさんで、私が2番目、tuffさんが最後尾。tuffさんが私を見守ってくれているので、とても安心感があった。そしてtuffさんのシール滑降がとても上手だった。どうしたらそんな風に滑れるんだ…。
西の空からぐんぐん不穏な雲が近づいてきた。風が急に強くなってきた。そしてついに雪が降り始めた。夕方からの降雪と思っていたが、予想以上に天候悪化が早かった。
雪が降ったり止んだりを繰り返す中、下山してゆく。痩せ尾根地帯を突破したら、ようやく尾根が広くなった。
15:20、本格的に降雪が始まったところでお楽しみの滑降タイム。足が売り切れ状態の私はもはや頑張って滑るのみ。中々良いパウダーだったので少しは楽しむ余裕があった。
降り始めた雪は早々にみぞれ雪に変わった。次第にウェアが湿ってゆく。
大石田沢右岸尾根を無事に滑降し、16:00渡渉ポイントまで戻ってきた。みぞれ雪から雨に変わった。この時点で着込めるものは全て着込む。バラクラバ、ニット帽を被りフリース2枚を中に着込んだ。ダウンは濡れてダメになりそうなので着なかった。結構キツい天気だ。渡渉をしてシールを再びつけた頃にはすでにグローブがだいぶ濡れてしまった。
聞いてみたらKさんのテムレスもビショ濡れの模様…。
あとはトレースを辿って引き返すのみ。水をシャバシャバに吸った雪はシールによく張り付く。出発前に対策としてシールワックスを塗ったが今日はほとんど効果が無い。
昨日30分しか寝ていないtuffさんはさすがに眠そうだ。小鍋又沢出合で小休止したときにバタンと倒れ込み、束の間の睡眠を取っていた。
本名室谷線から小鍋又沢に入ってゆく。右岸を歩き、朝渡渉した場所まで戻ってきた。板を外して小鍋又沢を渡る。もう一つ小さなスノーブリッジを渡り、いよいよ支沢から尾根の乗越に向かう。時刻は17:30。既に辺りは暗い。
沢の側壁をトラバースするように付けられたシュプールは案外登りやすかった。滑降時に主に先行していたのはKさんだ。ナイスルーファイ。
先ほどからゴロゴロと音がする。空が鳴っているなぁと思っていたら空がピカッと光った。雷か。降雨から霰に変わった。雷は怖いけど、霰はありがたい。しかしそれも束の間で再びみぞれ雪になってしまった。
tuffさんが先行してくれている。スキー板が下駄になっており大変そうだ。でもそのお陰で、2番手以降の影響は少なく快適に登ることが出来る。上部に行くほどに傾斜は増してくる。忠実にシュプールを辿る。滑降してきたルンゼも忠実に辿った。幅1mも無いので気合いの直登。普段なら登れなさそうな斜度だが、ベタベタ雪の今日ならかなり登りやすい。
18:30乗越到着。ついに最後の登りを終えた。あとは下るのみ。ここから標高差100mを落として林道合流。もう辺りは真っ暗だ。手間を惜しまず滑降モードで行くことにした。
悪雪かと思いきや、割と滑りやすい雪で助かった。
カニ歩きを駆使して対岸の林道へ登り返し。19:00、あとは約3kmの林道を戻るのみ。
私のガイドグローブはもうびしょ濡れ。たっぷりと水を含んでいるのがわかる。身体も寒いし、ニット帽をかぶっている頭も寒い。もはや頭が痛くなってきた。
後ろを歩いているKさんが、私を心配して、寒くない?と仕切りに声かけてきた。上着あるから着る?と何度か尋ねられたが「あと少しだからいいよ、頑張る。」と断った。
ぼんやりと歩く。もしここで運悪く全層雪崩に遭ったり、滑落して沢底に落ちたら、そのまま死を受け入れてしまうと思う。頑張るのが一番疲れる。でもこれ以上面倒事は増やしたくない。最低限、気を引き締めなければ。
いよいよ疲れてきて思考がさらにぼんやりしてくる。私のペースが落ちてきたのを見かねたKさんが上着を貸してくれた。フリース1枚と化繊ジャケット。びしょ濡れのジャケットをKさんに預けてその2枚を羽織る。寒さは続くが、その中にささやかな温かさを感じるようになった。
ようやく集落の灯りが見えてきた。19:50無事下山。
まとめ
地形図を眺めて気になっていたルート、会越国境の貉ヶ森山日帰り。やってみたかった山行が出来て嬉しかった。蓋を開けてみたらかなりハードだった。渡渉や痩せ尾根があり山スキーには不向きなルートだったが、それでも山スキーでなければ行けなかったし行こうと思わなかった。改めてスキーの機動力の高さを実感した。貉ヶ森山の山頂から見た景色は素晴らしかった。行きたいところが増えたのでまたこの山域に足を踏み入れたいと思う。会津loversで活動出来て楽しかった!Kさん、tuffさん、ありがとう。またよろしくね。
冬山の装備について
今までは基本的に晴れた雪山にしか入山しなかった私だったが、今シーズンは風雪だったりと悪天の中でも入山するようになった。そして今回、みぞれ雪・雨の中でここまで長時間行動したのは初めてだった。正直辛くて、1歩間違えれば危機的状況になっていた可能性がある。
後から私のジャケットを取り出してみたら、水が滴るほどビショ塗れだった。私のジャケットはファイントラックだが、もうかれこれ7年使っている。実は先日行った東谷山でも、低温の為か背中部分のフリースとジャケットの間が凍ってしまい寒さを感じた。
貧乏性を発揮して大事に使い続けていたがやはり装備は古くなったらきっちり買い替えるべきと反省した。まだ欲しいな〜と思いつつ買えていない装備もある。
悪天の雪山は本当に厳しくごまかしは効かない。より良い山行をやっていくために少しずつ自分の装備を見直していきたい。
先日はスキー板とビンディング、ブーツを変えたが、準備時間がかなり早くなった。おかげで今回雨の中でも手際良く滑降モード、ハイクモードに切り替えることが出来たと思う。
↓今回Kさんの貸してくれた化繊ジャケット(モンベルのフラットアイアンパーカ)に助けられた
「フラットアイアンパーカはハードシェルの上から羽織れて暖かく、軽いので稜線などの行動中にもサッと着れるのでとても便利です。」By Kさん
ヤマレコ
ヤマレコにも記録アップしました(主にKさんが編集)
「その他周辺情報」に貉ヶ森山の積雪期記録をまとめています。