2021年6月26日(土)
8:05 – 登山口駐車場(大黒屋) – 8:30 白糸の滝 – 9:50 二俣 – 11:10 左俣右沢出合 – 12:10 登山道 – 12:45 甲子山 13:00 – 14:15 登山口駐車場 (合計時間6h10m)
距離 : 6.5km 累計高度(+) : 761m 累計高度(-) : 753m
メンバー : 2人
天気 : 晴れ時々曇り
※参考記録:2003年7月5日 阿武隈川 白水沢左俣 右沢 – その空の下で。。。
甲子山(かしさん)は、福島県の西郷村(にしごうむら)、栃木県と福島県の県境付近に位置する山である。那須連峰の北部に位置する山だ。
今年の5月上旬に、甲子山より少し北にある鶴沼川二俣川左俣から大白森山(おおしろもりやま)へ登った時に、初めて那須連峰の一端を間近で眺めた。目前には堂々たる山容の甲子旭岳。いつかはあちらの山域も歩きたいという想いが膨らんだ。
今回は、私が行きたくて計画した沢である。Kさんを誘ったのだが、とうの本人は連日の仕事でお疲れモード。「週末は家で寝ていたい。」とまるで来てくれる気配なし。じゃあ1人で行くよと言ったら、それはそれで見過ごせないのか、分かったよーと渋々ついてきてくれた。
当日の朝、車の運転中も、最終コンビニでの食料調達の時も、登山口についた時も、Kさんはひたすら助手席で寝ていた。どれだけやる気が無いのだ。あまりに起きないので、「じゃあ1人で行ってくるから、温泉でのんびりしてて。」と声をかけたら、ようやく慌てて準備を始めた。
今回の沢は、私がリーダー担当だ。Kさんときたら、下調べをまるでしていないらしい。現地でのルーファイやリード、必要になりそうな装備を考えて担ぐのも全て私がちゃんとやらなければいけない。沢登りのリーダーは、以前に木ノ根沢で経験したが、こちらは沢歩きの要素が強いルートだった。ロープを出す可能性のあるような沢でリーダーを務めるのは今回が初めての経験だ。
所々至らない点もあったが、無事に今回の山行を終えることが出来て良かった。
8時過ぎ、大黒屋駐車場を出発。少しだけ登山道を辿り、1つ目の堰堤を過ぎたところで入渓。すぐに目前に白水滝(8m)が現れる。勢いよく水を落とす美しい滝、周囲は急斜面に囲まれている。目の当たりにすると、本当にこの滝の上へ登ることが出来るのか不安になる。水線の左壁に、踏み跡のようなバンドのようなラインを見つけた。ここなら行けそうだ。慎重に岩を登り、無事に滝上へ。滝下のKさんに○合図を送ると、「ナイス!」と声が帰ってきた。朝はご機嫌斜めなKさんだったが、私がちゃんと登っていったら、すごいね!と褒めてくれた。
滝上の堰堤を左岸の踏み跡より難なく突破すると、上流にも美しい渓相が続いていた。
白い岩に透き通るエメラルドグリーンの水。今日は曇り予報だが、時折切間から太陽が顔を出し、水面に光が反射する。
続く滝は右岸のリッジより。その上にもちょこちょこと滝が続き忙しい。全体を通して、渓相は綺麗で素晴らしい。来て良かった。
Kさんも、美渓を目前に次第に元気を取り戻していく。「まぁ〜、家で寝ているよりはマシだったな。」と1人納得していた。
小滝をへつっていると、後方のKさんが、鳥がいる!と突然叫んだ。確かにすぐ近くでチュンチュン鳥の鳴き声。見ると、足元の滝壺で鳥が羽をばたつかせて溺れていた。条件反射のように、溺れる鳥を手で救う。小鳥のヒナだった。ヒナはずっと暴れている。手から離れて再び沢に落ちてしまうが、ようやく捕まえてお腹のポーチにいれた。
ちょうど今、Kさんの右側のルンゼから目の前を落下してきたようだ。巣から落ちたヒナはどうしたって死んでしまうだろう。しかし、滝壺で溺れているヒナが苦しそうで、見た瞬間に手を出さずにはいられなかった。左岸の頭上ではチュンチュンと親鳥らしき鳥の鳴き声。ヒナが滝壺に落ちたところを見ていたのかもしれない。
まだ際どいヘツリの途中だ。命を預かっていると思うと、より緊張感が増す。小滝を登るまで1分ほど。沢沿いから離れて、左岸の平なスペースにヒナを置こうとした。再び様子を見ると、既にヒナは息絶えてしまっていた。よく観察すると首の骨が折れていた。土の上に置き、落ち葉をそっと被せた。
たまたま滝壺に落ちてきたヒナを目撃してしまったが、きっと、山の自然で生きる小鳥たちにしてみれば、たまにある事故なのだろう。私の知っている山は、小鳥のさえずりが聞こえ、豊かな原生の木々が広がり、自然のパワーを感じる素晴らしい場所だ。しかしそれはあくまでも1つの側面にしか過ぎない。自然は決して優しいだけではない。生き抜くのは厳しく、過酷な場所だ。大自然の営み、その現実を思い知らされた出来事だった。
二俣を左俣へ進む。順調に遡行していく。先ほどの出来事は悲しかったが、やはり白水沢は美渓だ。豊かで美しい大自然に包まれて、私もKさんもテンションが上がる。
二俣を左俣へ進み、さらに奥の二俣へ。右沢も左沢も、出合には立派な滝がかかっている。右沢出合の4段30m滝へ取り掛かる。どうにかして高巻きもできそうだったが、時間もあるし、せっかくなので人生初のリードに挑戦してみることにした。
水流右を直登。まずは倒木で支点を取る。それ以降、支点を取れそうな場所はどこにも見つけられない。手元のあちこちには岩の割れ目があり、カムさえあれば簡単にキマりそうだが、リーダーWaka、カムは全て車に忘れてきてしまった。沢登りでカムを持っていくなんで今まで全く意識していなかったが、たった今、めちゃくちゃ大切だということを痛感した。(そういえばKさんは毎回持って行っていた。)仕方ないので、ハーケンが決まりそうなところを必死に探してようやく2つ目の支点を取った。その上部でも支点が取れそうなところが見当たらない。次の一歩がなかなか怖く足が出ない。
「墜落は最大のタブーです。」昨日読んだ、童人トマの風著の「沢登り」の一文が脳裏によぎる。その言葉の意味がすごく良く分かる。足場を慎重に選び、意を決して、登る。無事に上まで登ることが出来た。ボルトにヌン掛け出来ることの安心感、支点が手軽に取れることのありがたみを痛感した。
そして、怖いと思ったのはやはり自分の登攀力が未熟だからなのは明らかだ。安心して登れるようにもっと鍛えなければいけない。下から見守っているKさんもさぞヒヤヒヤだったことだろう。
一段目を無事に登ったが、見渡すと、これまた支点を取れそうな場所が無いではないか。右岸の木にセルフビレイを取り、すぐにKさんのフォローに取り掛かる。明らかに支点の取り方が下手くそで、万が一フォローが滑ったら大きく振られてしまうのは明白だが、もうどうしようもない。Kさんだから大丈夫だと、今回はそのままビレイ。ごめんなさい。Kさんはやっぱりスイスイ登ってきた。
登ってきたKさんに謝ったら、やはり安心感はまるでなかったようだ。ちなみにKさんは、ロープワークやビレイなど、山や岩での安全管理に関してはとても厳しい。(過去、鬼の形相のKさんに何度注意されたことか・・・。)今回も、Kさんに怒られる!と首を縮めていたが、リードで登りきったのを褒めてくれたりして意外と優しかった。何なら「ハーケンがしっかり効いてたよ」と言ってくれた。でも私の中ではとっても反省しているのは事実だ。今後の経験で早急に改善していきたい課題である。
続く滝も突破が大変そうなので高巻きすることに決定。Kさんがそのままリードで登ってゆく。高巻きの途中でピッチを切る。
Kさんがロープを畳んでいる間に先の様子を見にいくと、傾斜がかなり急な右岸の斜面にバンドが続いており、滝の落ち口へトラバースできそうだった。これは、行っても大丈夫だろうか。もし滑ったら死んじゃうじゃん。とモジモジしていたら、Kさんがやってきた。まだそこに居たの?!みたいな顔をしている。先のルートを相談したら、Kさんが先行してくれた。
続いて私も歩くが、やっぱり怖かった。慎重に、時間をかけて無事に落ち口へ。Wakaリーダーまだまだ未熟である。
最初は「1人でも行く!」と息巻いていた白水沢だが、普通に怖い。Kさんがいてくれて良かった。
続く二俣を左に進み、上部にわたる登山道を目指す。辺りは詰めの様相。倒木やゴーロが多い。唯一あった涸滝は容易に登ることが出来た。続くKさんが登っていると、ごっそりと頭ほどの岩が崩れた。落ちた岩が地面に当たった衝撃で火薬の匂いが付近に漂った。本日のKさん、2度目の落石誘発である。私は先に登っていて良かった。笑
薄い藪を漕いでいくと、程なくして登山道に合流。せっかくなので甲子山に寄り道し、15:20無事下山。
私が本格的に沢登りを始めたのは昨年の夏である。美しい沢へいくつか足を運んだが、全ては心強い山仲間のおかげだ。私自身は沢登り初心者なので、仲間に頼ってしまうシーンが何度もあった。
そんな仲間ありきの沢しかやったことがないので、いざ「行きたい沢はどこ?」と訪ねられても、自分の力量で行ける沢は非常に限られるので「ここへ行きたい!」となかなか提案出来ずにいた。
今年はレベルアップを図りたかった。今回の沢は、自分がリードしたりルーファイしたりする決意を持って選んだ沢でもある。今日の沢登りは、私にとって、とても難しく、怖かった。それでも素晴らしい達成感があった。自分にとっては大きな1歩だ。そしてリーダーを担当することで「自分の力量で行ける沢」がはっきりと分かったのも大きな収穫だ。
白水沢はグレードでいうと「1級上」らしい。今までは仲間と共に3級の沢へも入ったが、やっぱりそれはあくまでも仲間たちのお陰だと実感した。仲間が先導してくれる安心感というのは偉大である。
いつかは自分が先導して、色々な沢へ行けるようになりたい。まだまだ自分は未熟だ。決して油断せず、慎重に、自分の力量で行ける沢を少しずつ増やしていけたらと思う。
【参考書籍】
沢登り (ヤマケイ入門&ガイド) 手嶋亨 (著), 童人トマの風 (著)