2021年7月3日(土)
メンバー : 3人(Waka、M氏、みやま侍)
天気 : 曇り時々晴れ
M氏、みやま侍、私の3人で沢下りへ。
〜今回の山仲間たち〜
M氏・・・
会越で出会った1つ年下の女子。生き物や自然が大好き。女子登山部のメンバー。どこでも秒で爆睡する寝師。YouTubeチャンネル「源流徘徊たなか」。
みやま侍・・・
Sさんの幼馴染み。山の名前も沢の名前もまるで覚えられない。毎回訳も分からず山登り(沢登り)をしている。沢登りデビューは「釜川右俣千倉沢」。Sさんに連れられて日帰り遡行。
今回の沢は、みやま侍の希望だ。M氏は以前にも同沢を下降したことがあり、その話をみやま侍にしたところ「ぜひ行きたい!」となったようだ。
行った山の名前も、沢の名前もまるで覚えられないみやま侍が、自身の行きたい沢を提案するなんて、なんと珍しいことか。是非とも希望を聞き入れてあげなければ。私自身も気になっていた沢だったので大賛成。7月3日の土曜日、念願の沢へ入渓できることとなった。
駐車ポイントに車を停めて出発準備。天気も良いし、これは良い沢日和になりそうだと思ったが、なんとみやま侍、膝が痛むらしい。以前から痛かったようだが、今日はどうしても行きたかったし沢の下降だからなんとかなると無理矢理来たらしい。出発前にイブを飲んで、ドーピング処理を施していた。
いよいよ出発。林道を辿っていくと程なくして送電線の巡視路に合流。道を利用して目当ての沢へ向かう。瞬間、みやま侍の膝に激痛が走ったようで、再びイブ注入。薬って、こんなに頻繁に飲んで大丈夫?泳ぎ区間では痛みがおさまってくれることを願う。
枝沢を下降して、いよいよ本流へ合流。
降り立った入渓点はゴーロ帯。ハーネス付けたりと準備を済ました。
出だしは退屈なゴーロ歩きを想像していたが、そんなことはない。歩き始めると素晴らしい渓相が広がっていた。こんな楽しいゴーロ歩き、今まであっただろうか。腰まで水に浸かり、じゃぶじゃぶと進んでゆく。
早速テンションが高まり、みんなでキャイキャイ騒ぐ。私もみやま侍も大興奮だが、M氏がニヤリとして、ハイライトはまだこの先だよと言う。これ以上に素晴らしい景色が待っているのか。
みやま侍の膝が心配だったが、ネオプレンタイツを履いたらタイツの圧迫の影響か膝の痛みが消えたようだ。良かった良かった、一安心。
そのうちに、目前に滝が現れたので懸垂下降で突破。
いよいよゴーロ帯は終了し、滝がちらほら現れる。小滝に飛び込んだり、瀞を泳いだりして順調に進む。雲の切れ間から太陽が見えた。光が水面に反射する。水中をみやるとイワナたちがピュッと泳いでいくのを何度も見かけた。この沢には、釣り師たちはそうそう入らないだろう。悠々と泳いでいるイワナたちが気持ちよさそうだ。
進んでいくと、崩落箇所が現れた。M氏曰く前回来たときは崩れていなかったらしい。土砂は生々しく、まだ新しい。見上げた側壁が再び崩れてきそうで、そそくさと通過した。
どんな自然も生きていて、時と共に変化していく。沢に一生があるとして、その中でもっとも美しい瞬間に立ち会うことは、きっと困難なことだ。目まぐるしく変化する自然の姿。ただ美しい姿だけに期待して入渓するよりは、その時々の沢の姿を受け入れ、沢の人生に思いを馳せるような向き合い方をしたいと思っている。
下降を続けていると、なんと人影が。単独の年配の男性。地元のオトンだった。足元は地下足袋、腰には鉈(?)を携えている。明らかに沢登りの格好ではなくて、どうやって来たのか尋ねたら、ゼンマイ径を辿ってきたと教えてくれた。ここらで引き返すようで、途中まで自然と私たちと一緒に歩くことになった。私たちは水の中をじゃぶじゃぶ進んでいくが、オトンは右岸、左岸と河原を歩いたり、へつったりして進んでいく。
途中で姿が見えなくなったと思ったら、片手に立派な鹿のツノを握っていた。根元にはまだ皮がついておりすごい悪臭を放っている。私たちにツノを見せてくれるのは嬉しいが、とにかく臭すぎて、たまらずオトンと距離をとってしまった。オトンも臭いが気になったのか、鉈でカーン、カーンと叩いて皮を丁寧に剥がしている。その姿は完全に猟師だった。
剥ぎ取り中のオトンを置いて、先に歩き始める。M氏やみやま侍と、あれは流石に臭かったねと話し合う。 M氏は腐臭の修羅を何度か経験している。M氏がSさんと以前遡行した赤渕川も相当臭かったらしい。今回はどんくらい?と尋ねたところ、「同じかそれ以上!」と言っていた。つまり、私は今回相当な悪臭を経験できたようだ。
そのうち再びオトンが追いついてきた。ツノの皮は綺麗に剥がされて臭いはマシになっていた。
オトンが今回何しにここへ来たのかは良く分からなかったが (散歩?)、話を聞くと、春先には熊撃ちをやってたり飯豊の某険谷で山菜採ってたりするらしい。
山菜採りなんて一見楽しそうだが、やってることは沢登りの高巻きと変わらない。私たちと同じような場所を、ノーヘル軽装で普通に歩いているのだからかなり凄い。
そんなオトンに、なんでこんな場所に?冒険してるんか?と尋ねられた。しばし考えて「そうです。」と答えた。オトンからしたら、我々の方がよっぽど変人集団のようだ。
ゴルジュ直前でオトンとお別れして、我々は引き続き水線を下降する。
M氏、意外と飛び込みが苦手なようで、小滝ダイブするたびにビビっていた。それでも意を決して頑張って飛び込んでいる。M氏はいつもメガネを掛けて沢へ入っているが、どれだけ水に浸かってもメガネを無くしたことがないのが不思議である。
ウォータースライダー!
— Waka (@3776_yamanchu) July 4, 2021
たな氏がんばったw pic.twitter.com/5wuIHNRRRu
狭まったゴルジュ、足は到底届かず、存分に泳ぐ。水深不明の場所もいくつか。泳ぎが苦手な人は相当怖いだろう。私は運動が苦手だが、水泳だけは小さい頃習っていたのでマシだ。まさか大人になってこんなに活きるとは思わなかった。習っていなかったらカナヅチ確定だったので当時通わせてくれた母親に大感謝だ。
今回初めてライフジャケットを使用したが、身体があまり沈まないので泳ぐのが楽だった。
ゴルジュを泳いでいると、前方でスパパパパン!!!!と物凄い爆竹の音。3人とも焦る。狩猟でもしてるのか。下手をしたら誤射されてしまうと思って、必死に笛をピーッと鳴らして人間アピール。
ゴルジュを抜けた先の河原にいたのは先ほどのオトンだった。再びゼンマイ径を使って河原に降りてきたようだ。私たちが来るのを先回りして待っていてくれたようだ。爆竹はおそらくアピールのために鳴らしたのだろうが、正直射殺されるかと思ってビビった。オトンとしばしお話し、いよいよ最後のお別れ。強烈なキャラだったが出会えて良かった。
謎のゼンマイ径の存在も気になった。ここらの山域には険しい渓がいくつもあるが、同時に地元の人にとっては生活の山でもある。私たちのような余所者が到底知らないような生活の為の径が、実は色々と存在しているのかもしれない。なんだかロマンのある話だ。この山域をもっと知りたいと思った。
ゴルジュ帯を抜けて河原の様相。足元の浅瀬に、チロチロと稚魚が泳いでいた。イワナ!とはしゃいでいたが、後から調べたらおそらくハヤの稚魚だ。写真を撮りまくっていたら、いつの間にか稚魚たちが居なくなってしまった。みんな嫌がって隠れてしまったのかな?とションボリしていたら、なんとM氏の足元に集合して元気良く泳ぎ回っていた。可愛い!可愛すぎる!!自由自在、縦横無尽に泳ぎまわる稚魚たち。ひたすら見守る、幸せのひと時だった。
いよいよ下降も終盤に近づく、そのうちに水温がやや低下したのか肌寒くなった。昼を過ぎて、山の向こうに太陽が隠れてしまったことも原因の一つかもしれない。
枝沢にかかる滝の1つ1つが美しい。特にみやま侍はそんな滝たちに特別目を惹かれるようで、滝に出合う度に大喜びしていた。
最後に不気味なゴルジュを突破。泥壁を登り、沢床から脱出。
脱渓点から駐車ポイントまでは距離があり、タクシー手配を考えていたが、ちょうど出会った地元のオトン(沢で出会ったオトンとは別人)がなんと駐車ポイントまで車で乗せていってくれた。地元の方の親切さが胸にしみた。
最初から最後まで、素晴らしい出来事の連続。この山域がますます好きになった1日だった。
今まで、アプローチの為の沢下降、下山のための沢下降はやったことがあるが、「沢下降」そのものを目的とした、沢下り(キャニオニング?)は初めての経験だ。今まで、沢下りといってもあまりイメージが沸かなかったし、沢といえば「沢登り」しかないという先入観があった。
初めて下降して、こういうスタイルで沢へ入るのもありだと思った。
よくよく考えると、沢に入ったら「登らなければいけない」というルールは無い。
グレードを意識した「遡行」自体を目的とするなら勿論登るべきだが、私にとって一番の目的は「深い自然に浸る」ことだ。
どんな手段で歩こうか、どんな山へ行こうか、手段も山も無数に存在する。
もっともっと色々考えて、私も私なりの山歩き、私にできる山歩きを楽しみたい。
今回は、そんな気づきを与えてくれた山行だった。M氏、みやま侍に感謝です。
【今回使用したライフジャケット】