2024年10月26日(土) 晴れ
桜坂駐車場(6:25)-入渓(7:00)-ヌクビ沢出合(8:15)-天狗岩下部(9:15)-天狗尾根(10:40/11:00)-三嵓沢出合(11:50)-前巻機山(14:30/14:50)-桜坂駐車場(17:35)/合計11時間10分
メンバー : 2人(Waka , Kさん )
距離 : 9.1km 累積標高差 : 1,351m

山行記録
10月下旬に差し掛かり、南魚沼の紅葉前線は次第に高度が下がってゆく。来週はずっと雨予報で、晴れているのはこの週末土日のみ。兼ねてより気になっていた巻機山の天狗岩へKさんと行ってみることにした。
天狗岩は巻機山の隣にある割引岳から伸びる天狗尾根の途中に位置する岩峰である。
深田久弥の著書『日本百名山』”巻機山”の項では、鈴木牧之の『北越雪譜』を引用しており、”破目山“が挙がっている。深田はこの”破目山”は天狗岩を指していると考えている。
現在の割引岳は、陸地測量部が地元住民から山名を訊ねた際に、破目山(天狗岩)とその奥に見えた三角点のピークを誤って”割引岳”としてしまった結果だとしている。さらに”ワレメキ”が”ワリビキ”と聞き間違えられた可能性もあるという。
深田は『北越雪譜』に記された破目山(天狗岩)を、”この隠れた美しい山を上越国境中の一名山として挙げたい。”と述べていた。
深田自身が実際に天狗岩へ登ったかは分からないが、そんなロマンある話を聞いてなおさら行きたくなった。
とはいえ、巻機山天狗岩はあくまでも岩峰で、前衛であるので、それだけを目的に山へ登るのはいささか物足りないと思っていたのが事実だ。それが今回は妊娠してハードな山行が出来ないため、まさに今、のんびり天狗岩へ散策に行くチャンスだと思った。
土曜日の山行で一番の核心は駐車場だ。頑張って早起きして自宅を5:00出発。5:30に桜坂駐車場に到着すると、想定通りほぼ満車になりかけていた。トイレのある第二駐車場は既に埋まっていたので奥の第一駐車場へ無事に駐車。
のんびり支度して、6:25登山開始。
天狗岩へのアプローチは途中まで割引沢の登山道を利用する予定だったが、入渓早々Kさんが沢を遡行したいと言い始めた。お手軽に登山道をたどるつもりだったのに滝を登る羽目になってしまった…。
秋でヌメるし、弱体化した私にとって久々の沢登りはけっこう怖かった。沢は賑わっており登山者や沢屋を含めて前後をパーティーに挟まれながらの遡行となった。

“アイガメの滝”も右岸に簡単な登山道があるにもかかわらず、Kさんが滝を登りたそうにしている。
「滝を登った方が簡単だよ。」
そう言いくるめられて、滝を登らされる羽目になった。滝の上部は結構立っていて流石に危険な予感がする…。
「私は登山道から行くから。」
強制離脱したらKさんもついてきてくれた。周りに登山者がいてカッコつけたいのか知らないけど、私まで巻き込まれるのはゴメンである。
アイガメの滝を越えたら、渓相は穏やかになり、程なくしてヌクビ沢出合に到着。他のパーティーはヌクビ沢を遡行してゆき、割引沢方面へ向かうのは私たちだけだった。
二俣から少し入ったところで小休止。
割引沢はゴーロが続くものの、ヌクビ沢より沢幅が広く開放感がある印象だ。ヌクビ沢ルートは近年人気なので週末に静かな登山をしたいならこちらの天狗尾根ルートを歩くのもアリかもしれない。
遠くに立ちはだかる天狗岩が近づいてきて、程なくして基部に到着。


見上げる岩壁は圧巻。そして、スラブは美しい…!これは期待に胸が高鳴る。
取り付いてからしばらくは、濡れている箇所が多くヌメるので慎重に。弱体化した今の私にとっては、ちょっと怖い。しかし天狗岩へアプローチする為の一番の弱点はここだろうから仕方がない。綺麗なのは最高だけれど、帰りもここを下降しなくてはいけないのが憂鬱だ。
美しい景観にテンションが上がったKさんの指示であっちへ登ったりこっちへ登ったり。

天狗岩は登山大系にも掲載されており、アルパインのルートが南壁と西壁で少なくとも3本以上拓かれている。
その中の中央稜フランケルートは2020年にコミネムと山ガール師匠がトライし途中撤退しているらしい。ヤバすぎる岩壁だ。故きのぽん氏が2005年に学芸大ルートを登攀した記録もヒットした。
とりあえず私は一生登ることはなさそうだ…。


天狗岩の付け根にあるテラスまで登ったら、念の為にハーネスを装着した。最近お腹が出てきているため、なるべくお世話になりたくないし懸垂下降もしたくないのが本音だが、一応何があるか分からないので。
途中の傾斜が急な箇所は天狗岩の付け根付近から巻き気味に上がる。


高度を上げるとスラブが乾きフリクションが良くなってきた。斜度が落ち着き、楽しむ余裕が出てきた。



逆層の白いスラブは圧巻で、行ったことはないけど谷川岳幽ノ沢カールボーデンのミニ版のような感じだと思った。航空写真で見る限り、今立っているスラブが最大規模だが、私が巻機山登山の時に井戸尾根から眺めたスラブ面ではない。そちらも気になるところだ。
スラブをトラバースして、天狗尾根に乗ると、前巻機山と井戸尾根が見えた。足元は草まじりのスラブが広がっている。ここが私が井戸尾根から眺めたスラブだろう。行きたかった場所についに行けて感慨深くなった。のんびりお昼ご飯を食べて景色を楽しむ。


時刻は11:00。充分堪能したので下山に取りかかる。それにしてもあのスラブをクライムダウンするのが憂鬱だ。一応30mロープは持っているが、懸垂下降するにも支点が少なそうだし…。
Kさんに、以前井戸尾根から撮影した写真を見せて意見を仰ぐ。
「ヌクビ沢方面に下りられるかな?」
「これは多分行けるね。ヌクビ沢方面に下りてみようか。」
じっくり写真を眺めていたKさんが返答した。私からすればどこも崖に見えたけれど、さすが経験豊富なKさんだ。私としてもツルツルスラブよりは藪尾根を下る方が精神衛生上良いし、こちらの方が面白そうだったので大賛成だ。
ということで、井戸尾根から眺めていたスラブ斜面の下降に取りかかる。


確かに急ではあるが、フリクションバチ効きだし、灌木があるのであまり怖くはない。

程なくして藪に突入。そのうち沢の音が近くなってきて、枝沢に合流した。引き続き下降して、無事ヌクビ沢に着地。懸垂下降不要で困難な箇所はなく大勝利のルーファイだった。Kさんありがとう!


時刻は11:40。今日はお気楽ハイキングなのでここで下山する予定だったが、Kさんから「三嵓沢遡行して帰りは井戸尾根下る?」と提案があった。
標高差600mくらいか。14時か15時までに稜線へ上がれば問題なく下山できそうだ。
「三嵓沢は簡単な沢だから大丈夫だよ!」
私を説得するKさん。
「じゃあ前巻機山へ寄り道して下山しようか。」
Kさんの提案に乗って、三嵓沢を遡行することにした。
少し進むとすぐ三嵓沢出合に到着。
時間が遅いので他に遡行者はいない。引き続き前巻機山を目指して登る。確かに簡単な沢ではあるが、滝が無いわけではない。既にふくらはぎが疲れている私にとってはしんどい登りとなった。しかも巻きが急斜面で腕も足もパンプしそうだった。


ようやく滝が落ち着き、いよいよ最後の詰め。

チシマザサの藪を少し漕いで登山道合流。数十m歩いて14:30に前巻機山到着。
ひゃー頑張った!地面に座り込み、のんびり休憩。目前には美しい巻機山のピークが見える。まだまだ登山者が歩いていて賑やかだった。
「巻機山まで登る?」
Kさんが聞いてきた。下山する気まんまんだった私は寝耳に水だ。妊娠前ならまだしも、今はコースタイム+αのペースでしか歩けない。時間を計算してみたら、巻機山まで登ると下山は19:30になる見込みだ。無理無理〜。
「私は登らないから、1人で登ってきて良いよ。」
「1人だったら登らないよ。」
そう言うKさんだったが名残惜しそうだった。しかしここで優しくして巻機山へ行ったら絶対に後悔するからやはり心を鬼にするしかない。


14:50下山開始。山は次第に赤く染まってきて、夕方の気配。井戸尾根は難所が一切なく快適だ。本当に完成された尾根だと思う。スキー場にならなくて良かった。
途中で2パーティーに追い越され、いよいよ日帰り登山者の中で最後尾になってしまった。朝はあんなに賑わっていたのに、今は静寂そのものだ。夕日に染まる井戸の壁のブナ林はとても美しかった。最後の最後でとっぷり日が暮れてヘッドライト装着。


17:35駐車場下山。
のんびり半日ハイキングのつもりが欲張ってガッツリ行程になってしまった。流石に疲れたのでこのレベルの山行はしばらく自粛しようと思う。