2024年7月20日
台所にいると夫の叫び声が聞こえた。
何事かと夫の元へ行ったら、ココ(ウロコインコ♀)が外へ飛んでいってしまったとのこと。
脳の処理が追いつかない。なんで?
いつも肩にとまって人好きなココ。脱走なんかしないと思っていた夫はココと共に、1階のニワトリ小屋へ行ったそうだ。全開にしている扉から外へ飛んで行ってしまったとのこと。
「は?何やってるの!」という言葉が出かかったが、飲み込んだ。一番参っているのは夫自身だろう。
「どっちへ飛んでいったか見えた?」
「分からない。家の裏に飛んでいったのは見えた。」
「とりあえず探そう。」
2人で外へ出て、手分けして探す。「ココー!」と呼びながら木や建物を見上げるが、どこを探しても全く気配がない。
飼い主の不注意でインコが脱走する事故はよくあるそうだ。そして残念ながら脱走したインコが再び帰ってくる確率は限りなく低いことも知っていた。厳しい言い方だがインコを逃すことはインコを殺すことと同等なのだ。
外にはカラスや猫などの外敵が多いし、ココはずっと家の中で飼っていたから餌を自分でとれないし、我が家の外観など見たことがないから自分で帰れるはずがないのだ。
どうしよう、どうしよう、頭が真っ白になる。
なんとなくココに似た鳴き声が聞こえた気がして見に行くが、ココはいない。似たような小鳥のシルエットはよく見れば全てスズメやツバメだった。
電線に止まっている彼らは必ず群れで行動している。でも、ココは仲間がいないから孤独だ。せめて、スズメの仲間に入れてもらえないだろうか…。
どこまでも続く広い外の世界で、小さなインコ1匹とうてい見つかる気がしなくて絶望した。
我が家はどちらかというと田舎に位置する。周囲には畑や田んぼが広がり、家は少ない。数km先には里山が取り囲んでいる。もしココが山へ飛んでいってしまったら…、もう帰って来られないだろう。
夕方の涼しい時刻。外で遊んでいたニワトリやヒヨコたちは暗くなってきたのでニワトリ小屋に戻っていった。ココもニワトリみたいに自分でお家に帰ることが出来れば良いのに…。
夫と合流して状況を聞くが、いないとのこと。
「もう暗くなるから、また明日の朝から探そう。」
「いや、もうちょっと探してみるよ…。」
弱った声でそう返された。
「…いよいよ暗くなったら戻ってね。あ、これ鳴らしてみれば?」
スコップとノコギリを渡す。ココは金属音に反応して甲高く「キッ!キッ!」と鳴くのでもしかしたら返事をするかもしれないと思った。
私は一足早く家に戻る。吊るしてある空っぽの鳥カゴを眺めて、とても寂しい気持ちになった。今年3歳になるココ。あと10年くらい一緒にいるつもりだったのに、もしかしたらそれは叶わないのかもしれない。
しばらくして、夫が帰ってきた。やっぱり見つからなかったようだ。
「あいつ、外で生きることなんてできないよ。死んじゃうよ…。」
ウロコインコのココ。我が家で一番偉いインコ。
構ってほしくて肩に止まってくるが、本を読んだりスマホをいじっていると拗ねて家の柱を齧り出す。背中を撫でると気持ちよさそうに目を細めるが、ちょっとでも気に入らない部位に触れると「キャッ!」と怒ってくる。
わがままでかまってちゃんな、私たちを振り回す女王様だ。
事情があって、今年の4月に知り合いの父親から引き取って我が家に来たココ。
朝っぱらからキーキーうるさくて、夜は寝てほしいのに、暗闇でずっとブツブツ喋っている。
この多忙な日々に、毎日2時間はココの相手をする時間を設けている。
それなのに、いつも騒がしい我が家がすごく静かになってしまった。
本当に居なくなってしまうなんて…。
今日は今までにない、ずっしりと重い空気が漂っていた。
ココを譲ってくれた知り合いに連絡を取ると
“前も一度脱走したけど、その時は自分で戻ってきたらしいよ。”
と返信がきた。
前回は戻ってきたという事実に少しばかり落ち着くことができた。
夫はココが戻ってくるかもしれないと、鳥カゴを庭のよく目立つ場所に置きに行った。
インターネットでインコの脱走について色々調べて、明日の捜索方法を検討する。
ココの場合は、毎朝キーキー鳴くことが多く、またお腹が空いてもキーキー鳴き始める。今日探した時は鳴き声が全く聞こえなかったが、明日の朝であれば鳴き声が聞こえるかもしれない。
明日は私は仕事があるため、朝の時間が限られているので、夫に主な捜索をお願いした。
迷いインコが通報されることもあるので、警察への届出、あとご近所さんへの連絡をした方が良いとも伝えた。
夜中、私はココを無事に捕まえる夢を見た。
ふと目が覚めると隣で寝ている夫が「ココー。」「ココ、どこー?」と寝言を言っていた。
いつもココに文句言ってばかりの夫も、とても心配で不安な気持ちになっているのだろう。
2024年7月21日
翌日の朝4時過ぎ、夜が明けてきた頃、夫がココを捜索するために外出したが、しばらくして戻ってきた。
「いた?」
「居なかった…。」
「そっか。まだ暗いから、もう少し明るくなったらまた探そう。」
朝6時、私が起床して朝ごはんを作っていると、キッ!キッ!とココのような甲高い鳴き声が聞こえた気がした。スズメの鳴き声とは違う、明らかに周波数の高い音だ。
寝ている夫を起こしに行く。
「ねぇココの声聞こえたかも!」
台所へ戻り、鳴き声が聞こえた方角を伝えた。台所は北西の角部屋に位置していて、鳴き声はさらに北西から聞こえてきたのだ。
夫は少しの間耳をすませていたが聞き取れなかったようだ。それでも「探してくる!」と外へ飛び出していった。私自身は仕事の支度があるので捜索は夫に任せた。
しばらくして夫からLINEが入る。
“いた”
すごく嬉しくなった。ココの好きなひまわりの種を持って、位置情報の場所まで見に行く。自宅から真西に100m程歩いて行くと、夫が大きな木を見上げていて、高い場所には確かにココがとまっていた。
1日ぶりの姿を眺めて無事であることに安堵した。
「最初からここにいた?」
「いや、最初はWakaの言った通り北西方面の木に止まっていたけどそこから飛び立ってこの木にとまった。」
「どうやって見つけたの。」
「木と同化してて、姿が全然分からないから、ココの鳴き声動画を再生しながら探したらココが応えてくれた。」
「ここで目を離したら、もう二度と探せないかもしれない。絶対に捕まえよう!」と夫に言った。
夫が持っているココの動画を再生すると、自身の声に反応してココが「キッ!キッ!」と甲高く鳴いた。
「ココ!おいで!」
呼びかけると、何度かこちらに向かって飛んでくるが、飛ぶのが下手なのか、うまく肩に着地できず、反対の木にまたとまってしまう。
「Wakaは仕事の準備してていいよ。」
と夫に言われ、確かにぼんやりしていたら遅刻してしまうので、準備を完全に整えてからギリギリまでココの保護を手伝うことにした。
幸いにも夫は今日1日空いていて良かった。仮に2人とも予定があったとしても、どちらか1人だけでもドタキャンや仮病を使ってでも時間を空けてココを探していたと思う。
支度を済ませて再び家の外へ出ると、なんと、夫の肩にココが止まっていて、こちらに歩いてくるではないか。夫が「よしよし、ココ良い子だねぇ〜。」とヒマワリの種で餌付けしながら猫撫で声で話しかけている。家のドアを全開にして迎え入れる準備をするも、直前でまたバタバタと、今度は自宅の北東方向へ飛び立ってしまった。
「「あぁっーーーー!!」」
私と夫の悲痛な声が重なる。
また姿を見失ってしまったことに焦ったが、ココの鳴き声を再生しながら歩いたら、すぐに家から北東へ50m程離れた、大きなスギの木から鳴き声が聞こえてきた。かなり高い場所にココがとまっている。
しばらく呼びかけるが、一向に降りてくる気配がない…。
私はここで時間切れとなり、あとの保護を夫に任せることにした。
・・・・
その後、1時間半の奮闘の末、無事にココを保護することができたそうだ。
肩にとまった時に、すぐ近くにあるご近所さんの農具を置いている倉庫部屋をお借りした。
締め切った部屋でココはしばらく飛び回っていたが、最終的に夫の肩にとまり、その後、用意していた鳥カゴに自ら戻ってくれたそうだ。
てっきり肩に一度とまってくれればそのまま保護できると思っていたが屋外ではそう簡単にはいかなかった。「逃げ場のない倉庫」があって助かった。
もし近くに倉庫がなかったら、虫取り網やゴミ袋を利用して無理やり捕獲することもまた1つの手なのだろうか…。
結果的に、ココは自宅から半径100m程の範囲でずっと飛び回っていたことになる。もっと遠くに行ってしまったと思っていたから意外だった。野鳥と異なり飛ぶ機会が極端に少ないココは、一度に遠くへ飛ぶ体力もあまり無いのかもしれない。
最初の捜索では、東方面を探す!と決めたら一直線にずーっと歩いて遠くまで探してしまったが、もしかしたら自宅を起点に、近い距離から確実に埋めていくように、ぐるぐると円を描きながら、渦巻きのように歩いて探すべきだったと思う。その方が効率が良く、見落としがより少なくて、適していたのではと今更気づいた。
ココが帰ってきて、また我が家は騒がしくなった。早速女王様モードで、夫も私も「あんた!また村に放すよ!」とつい小言を言ってしまう。
でも、手のかかるインコだが私たちの大事な家族だ。もう二度と同じ過ちを犯さないように気をつけたい。ココのいない時間は生きた心地がしなかった。本当に、戻ってきてくれて良かった。
↓脱走時、参考にしたホームページの1つです