2023年11月26日(日)〜27日(月)
メンバー : 静岡山岳自然ガイド協会
天気 : 両日ともに晴れ
マウントピア黒平にて、ショートロープ研修を教わった。
登山ガイドのショートロープとは?
基本的には顧客が歩行中にバランスを崩して滑落などしないようにガイドがサポートする技術。
今年は何度かガイド山行を行ったが、ショートロープを使う機会はなかった。
今後もショートロープを使うことは滅多に無いと思うのですが、いざという時にはしっかり使えなきゃいけない。
1日目
初日は平木ガイドに指導していただきながら、ショートロープおよびガイドのロープワークの基本を学んだ。
①ショートロープの安定性を知る
細い綱の上を歩く際にどのように歩くと最もバランスが取れるかを実際に試した。普通に歩くと、バランスが悪く左右にふらふらしてしまう。誰かにスリングで引っ張ってもらいながら歩くと、先ほどよりも安定して歩けるようになった。スリングの距離が短ければ短いほど、安定感が増した。
②ショートロープで引き込まれないようにするには
ショートロープはガイドと顧客がロープでつながっている状態なので、いざという時、顧客が転倒した時にガイドが引き込まれないように踏ん張る必要がある。
色々な体勢を実際に試してみた。結果的に最も安定感があるのは、腰を落とし、重心を低くした状態だった。
顧客転倒時のロープの持ち手も肝心で、顧客転倒時に持ち手が引き込まれて身体がグルン!と回転してしまうと踏ん張れない。落ちる方向に合わせてロープの持ち手、身体の向きを備えていることが大切。
③簡易チェストハーネスとシットハーネスの違い
簡易チェストハーネス(スリングでチェストハーネスを作ったもの)と、アルパインシットハーネスでは墜落時の荷重、身体の負担にどれほど違いがあるのかを試した。
木にロープをかけて、ハーネスでぶら下がってみる。
簡易チェストハーネスの場合は静荷重であってもぶら下がった途端に、脇腹、背中にスリングが食い込み痛くなった。(幅広のナイロンスリングを使っていたとしても)
アルパインシットハーネスでも同様に試しましたが、ほとんど痛くなかった。
簡易シットハーネスの場合はお尻が食い込み痛かった。
実際に、登山で簡易チェストハーネスを使用する場合は、ちょっとした墜落荷重で、身体が痛む、もしくは背骨が折れるなどのリスクがあるといえる。
静荷重ですら痛かったのだから、ちょっとでも運動が加わればさらに痛いと思う。
また簡易チェストハーネスの場合は重心が上に行く分バランスが悪いので、重心が低くなるアルパインシットハーネスの方が安心感があるといえる。つまりショートロープを使用する際は顧客にはアルパインハーネスの方が安心安全。
※鎖場でセルフビレイを取る場合も、怪我防止の観点から簡易ハーネスよりもアルパインシットハーネスを推奨するべきと思った。
④各ビレイ方法の負荷を知る
肩絡み・腰絡みビレイ…安定した足場でないと引き込まれる。重心を落とした方が安定する。(不安な時は座ってビレイする)。顧客を下ろす際は、身体にロープが食い込んでとても痛い。ウェアが消耗する恐れがある。
テレインビレイ…立木を利用したビレイ。基本的に負荷がガイドに来ることは無く、楽にビレイすることができる。幹がスベスベで摩擦抵抗が少ない場合は、ロープに捩れを加えることで摩擦を増やすことができる。顧客引き下ろしも同様。
ムンターヒッチ…負荷がガイドに来ることはなく、最も安定してビレイすることができる。
周辺の状況により最も適したビレイを行う。
⑤ショートロープの持ち方
基本的な持ち方は、数mのロープを手元で束ねる手法だが、最近は山岳ガイドの間でスリップノットを使うやり方が主流になりつつあるらしい。スリップノットの方が、早くて手元がロープでぐちゃぐちゃになりづらいので便利だと思った。
⑥ショートロープの実践
実際にショートロープをつなげてみる。最も大事なのは顧客との間のロープには常にテンションをかけていること。常に落ちない状態を意識する。
なかなか実践で使う機会のないショートロープ。そもそも現在のガイド間でのスタンダートは何か。というところから私は知らなかったので、色々と教えていただき参考になった。
ショートロープにおいては、やはり経験しかないので、練習していきたい。
2日目
三上ガイドに教えていただいた。昨日の学びをベースにより実践的な内容に。まずは急斜面での練習から
①各ビレイ方法の実践
急斜面を利用して、腰絡み、肩絡み、テレインビレイ、ムンターヒッチの復習。
腰絡みに関しては斜面では踏ん張りが効かず、ビレイヤーの安定感が損なわれてしまった。
今回は練習のため、仕方なくそこでやったが、現場での対策としてはロープを伸ばしても良いから安定した場所で行うのが大事だと思った。
②リードの実践
ショートロープにおいてはクライミングの基本が大事。
・・・
昼食休憩ののち燕岩岩脈へ。ガイド2人組でそれぞれショートロープの実践を行った。
以下、大切だと思ったこと
・スピード…実際に登山するとなっては、全てに時間をかける訳にもいかない。
・体力…常に顧客をロープで引っ張っていると、なんとなく精神的にも身体的にも通常のガイドよりも疲労が大きく、屈強な体力が必要だと思った。
・安心感…顧客が「落ちるわけがない」と油断してはいけない。いつどこでバランスを崩しても対応できる準備が必要。スピードを意識しつつも、常に安心できるショートロープでなくてはいけない。
・ガイドの歩行技術…危険箇所において顧客を安全に下ろした後は、ガイド自身も顧客を確保しつつ危険箇所を下りなければいけない。そこで必死になると顧客の安全を確保する余裕がなくなる。根本的な登山技術の向上が大切。また、危険箇所で自分がいかに安全に降りるために工夫することも大事。
ショートロープとは色々と奥深く、繊細な技術だと思った。しっかりと習得するには、やはり経験と練習が必要だと思ったので、今後も意識的に取り組んでいきたい。