2023年12月22日(金) 晴れ
黒戸尾根登山口(7:30) – 笹ノ平分岐 (9:15) – 五合目小屋跡 (12:15) / 行動4h45m
2023年12月23日(土) 晴れ
五合目小屋跡(5:20) – 六丈沢 (6:00) – 坊主の滝前 (7:15) – 滝上 (8:35) – 二俣 (9:15) – (15:00) 奥ノ滝 (15:40) – 稜線 (18:50) – 甲斐駒ヶ岳(19:20) – 七丈小屋 (21:30) – 笹ノ平分岐 (24日1:30) – 黒戸尾根登山口 (3:00) / 行動21h40m
メンバー : 2人(Waka , Sさん )
装備 : シングルロープ60m
先日、12/14に赤岳主稜に私を連れて行ってくれた先輩ガイドのSさんが、「黄蓮谷右俣行きましょう!」と誘ってきた。
色々と不安がある。まず私はアイスは昨シーズンデビューしてまだ3回しかやっていない。小さい滝をトップロープでしか登ったことがない。黄蓮谷右俣でフリー登攀する自信なんてまるでなく、Sさんに「アイスは本当に経験少なくて、フリー登攀自信ないので、全部の滝でロープ出してもらうことになるかも…。」と伝えたら「全部ロープ出します!」と頼れる返答。
もう1つの不安要素は体力。ただでさえ長大なルート、慣れないアックス振りまくってラッセルして無事に登れるのか。これは覚悟を決めた。軟弱な自分に喝を入れ「死ぬ気で付いていきます!」ってことでSさんと黄蓮谷へ行くことを決意。
(結果的には、やはり、私にとっては背伸びした山行となりましたが、本当に行って良かった。良い経験になりました。ロープ引いてくれた先輩に感謝です。)
1日目:登山口〜五合目小屋跡
朝7:00に黒戸尾根登山口に集合し、準備を整える。とにかく軽量化で荷物は軽くする。シングルロープは私が担ぎ、テントやツェルト、ガチャ類はSさんが担いでくれた。水を取れる見込みがないので、2日分で約3.5ℓをお互いに担いだ。
7:30登山開始。入山するこの2日間は強い寒波が入るらしい。確かに気温が低く指先が冷える。登山道に積雪は全く無く、夏山登山のような気持ちで高度を稼いでゆく。黒戸尾根は長大だが、下部はゆるゆると標高を稼げるので歩きやすい。
時々休憩をしながら順調に高度を稼ぎ、12:15五合目小屋跡着。
幕営準備ののち、明日下降予定の六丈沢を見に行く。右岸に踏み跡、ピンクテープがあり、まぁ問題なさそうだ。
テントで夕飯を食べ、湯たんぽを作成したのち就寝。
2日目:黄蓮谷右俣 〜 甲斐駒ヶ岳 〜 下山
起床、準備を整え5:20出発。
六丈沢の下降点で男女の2人組と一緒になった。私たちも支度を済ませて2人の後を追う。六丈沢は下降するほどに沢床がバキバキに凍結してゆく。
ちょっと悪いトラバースがあったり、なんとなく沢登りを彷彿とさせる。アイゼンをつけて、灌木を掴みながら突破。沢登りぽいとはいえ慣れないムーブにちょっと時間を要してしまって反省。
日が昇って来ると、正面に坊主山南峰が見えた。2018年に必死になって登ったピークだ。懐かしさが込み上げてくる。
沢床に滝が連続するようになったので右岸から巻き下る。男女2人組が休憩していたのでお先にと進む。
全体的に踏み跡があるように見受けられ、導かれるように下降。7:15坊主ノ滝前へ到着。
坊主ノ滝の左岸にはガレた支流が伸びている。見覚えのある景色だ、懐かしい。2018年はここまで黄蓮谷を遡行してガレた支流から坊主山に取り付いた。また同じところに来れるとは。
今回は、当時はとても登る対象とは思えなかった「坊主ノ滝」に取り付くのだから、なんだか面白い。
休憩していると、足元や滝から「バキッ!」という大きな音が聞こえてくる。氷が割れて落ちているのだろうか。今まで聞いたことのない音で気味が悪い。
Sさんが「状況悪そうだったら戻って来るよー。」と言いながら坊主ノ滝登攀開始。リード中に後続パーティーが2組来た。黄蓮谷、大盛況だ。Sさんは途中でスクリューを2本打ち、無事に突破。
コールの後、続いて私が登る。出だしが(私的に)バーチカルだったが、Sさんの真似をして垂壁にダートを蹴り込んだら、なんか立てた。とにかくアックスを振り、身体を持ち上げていく。スクリュー回収時に足が攣らないか心配だったが、落ち着いて回収することが出来た。
60mシングルでは若干ロープの長さが足りなかったらしく、Sさんはナメ滝の途中にスクリュー打って確保してくれていた。
「山岳ガイドの先輩は60mシングルで確保したって言っていたんだけどなー。」と言っていた。自分も滝身に近づいてビレイしていたつもりだし、細かい所作によって、なんか違うのかな。
Sさんのビレイ点から上は私でもなんとか歩けそうだったので、後少しビレイしてもらいながら滝上へ。
黄蓮谷右俣では坊主ノ滝が核心らしいので、一応ノーテンで上がることができてホッとした。まだまだ始まったばかりだ。頑張るぞー!
前方奥にぶっ立っている滝がチラリとみえ、Sさんに「あれ登るんですか?!」と尋ねたら「あれは登らないよ。」と言われた。どうやらあの滝は黄蓮谷左俣の門番らしい。ホッと一安心…。
出した60mロープはお互いに約30mずつ身体に巻き、コンテで進むことにした。
その後に15m滝が現れる。六丈沢の男女2人組がフリーで取り付いているところだった。彼らは坊主ノ滝は巻いたようだ。右の隅をSさんがさっと登り、私もビレイされながら登る。段々になっていて登りやすかった。でもギリギリの登攀能力で落ちたら15m、と考えると、やはり今の私にはロープ無しでは登れない…。
この辺りから斜度が緩み歩けるようになった。とはいえ足元はガチガチの氷。適当に歩くとアイゼンの歯が刺さらないほどだ。前爪をしっかり刺しながら歩いてゆく。ついSさんに「や、これってアイゼン歩行慣れてないと危ないですね。」と言ったら「慣れてない人は来ないから!」と返された。数年前にアイゼンをズボンの裾に引っ掛けてひっくり返ったことのある私…。今同じことをしたらどこまで滑落することやら…。厳冬期の富士山もこんな感じなのかな?マジでワンミスしないように意識する。
二俣を右俣へ進む。一面氷の世界で見事である。
六丈沢の男女2人組と前後しながらほぼ同じペースで登っていく。
滝がちらほら現れるが、Sさんがオールリード。流心に近いところはアックスがよく刺さり快適だが、そうでない箇所は一転、全体的に氷が硬かった。
氷の世界。アナ雪みたい〜。
ワンポイント、悪そーな滝があった。左から超簡単に巻けるが、Sさんが果敢に挑戦。無事に突破!
私に登る?と尋ねてきたが、奮闘する未来が見えたので遠慮してサクッと右岸巻き。
沢登りもそうだが、なぜ男の人って、滝を見ると登りたがるのだろうか。Sさんだけでなく同じようなことをしそうな男たちを何人か知っている。この現象に名前をつけたい。笑
GPSを確認すると、まだまだ稜線は程遠い。
ハイライトの奥千丈ノ滝はひたすらどこまでも続くナメ滝。滝身に屈曲がなく、足を滑らしたら長距離を滑落しそうだ。ここでもSさんにロープ出してもらうWaka。
男女2人組がフリーで登っているところを、60mロープいっぱい2ピッチ出すと、ようやく斜度が緩んでくれた。
ピッチを切ったところから見上げるとさらにポコポコとナメ滝は続いてる。むーん…。
今のところ全てで私はロープを出してもらっている。これでは時間がかかってしまう。Sさんに「この先はロープ無しで登れるかもです。」と伝える。
遠目からは「滝!」って感じだったが、近づくと斜度の緩い弱点があり私でも登れた。
Sさんが「無理しないで、怖かったらすぐに言ってね!」と優しい言葉をかけてくれた。
振り返れば、眼下に町景色。下界からそう遠くない山の中なのに、黄蓮谷にはそう簡単に脱出できない隔絶感が満ち溢れている。あの見えている町に下山できるのは果たしていつになるだろうか。
ずいぶん上まで登ってきたが、山頂までの標高差はまだまだ残っている。
小雪でラッセルは深くないものの、サラサラ雪の下に硬い氷や花崗岩があたる時があり、歩きづらい部分もあった。
氷のあまり付いていない滝を左岸から巻くと、1段上に奥ノ滝。おそらく最後の滝が現れた。時刻は15:00。本当ならこの時間に山頂にいたかったが、時間が押してしまった。寒波がきている割には天気の良い黄蓮谷だったが、いよいよ日暮れが近づいてきて急に身体が冷えるようになってきた。
奥ノ滝の氷は硬そうで、リードのSさんがバキバキ氷を壊しながら登っていった。続いて、私が登る。確かに氷が硬い!のでなるべくSさんの開けた穴にアックスを引っ掛けながら登る。なかなかのバーチカルで、筋力を消耗する。スクリュー回収するときに両手両足が力尽きそうになったが気合いで耐える。息も絶え絶え、なんとかSさんの元へ。坊主ノ滝よりシビアでしたわ。
ここからは滝はないはず。あとはひたすら山頂を目指すのみ!コンテのまま、上を目指す。途中でいよいよ日が暮れてしまった。見通しが悪いが、ひたすら上を目指す。結構急な雪の斜面だったので、大雪の時は雪崩れそうなルートだ。
体力オバケのSさんもオールリード&シャリバテの影響か疲れているようで数歩進んでは止まるという珍しい状況だった。私はずっと後ろを歩かせてもらっていたので、あと少し体力には余裕があった。ここは頑張らなきゃ!と先頭でトレースを刻む。私が前を歩いている間にSさんも回復したようで良かった。
振り返ると、下の方にヘッドライトの明かりがチラつく。一緒に登っていた男女2人組の他に、もう1パーティー居るようだ。分かる範囲で黄蓮谷で私たち含めて3パーティーが残業している…!
途中で沢筋を避けて灌木沿いを登ったりして高度を稼ぐ。
18:50稜線着。ついに黄蓮谷右俣を抜けた!
私の夫氏が「黄蓮谷抜けたら連絡して。」と言っていたので連絡を試みるが悲しきかな楽天モバイルは圏外…。心の中で、私は無事だよ!と念だけ飛ばしておいた。お湯を飲んだりして小休止。そのうちもう1パーティーが到着。彼らは坊主の滝前で会った2人組だった。六丈沢の男女2人組はまだ登っている途中とのことだった。
休憩ののち、甲斐駒ヶ岳の山頂へ寄り道。寒風吹き荒ぶ山頂だが、山梨の夜景は見事だった。
山頂へ寄り道して引き返すと、ちょうど稜線に到着した六丈沢の男女2人組にお会いした。「ラッセルありがとうございました。」と言われた。共に右俣を遡行したパーティーが全員無事に稜線に到着したようでなんだかホッとした。
私はお恥ずかしながら冬の甲斐駒ヶ岳の登山経験が無いので、引き続き、念の為コンテで下山することにした。山頂直下の岩場は、氷結しててこわっ!これは事故が多い理由も頷ける…。途中で謎に30分くらいの大休止を挟み、七丈小屋21:30着。
ひたすら足を動かし、ようやく五合目小屋跡に着。疲れていたらここでもう一泊する予定だったが、まだ気力は残っていたので一気に下山してしまうことにした。
黒戸尾根の下山はやはり長い。Sさんは眠気がないそうだったが、私は登山口まであと少しのところで強い眠気に襲われた。足元が自分の意志と関係なくふらつき、制御がきかない。仕方なくペースを落とすことで対応する。午前3:00、黒戸尾根登山口無事到着。
技術不足が原因とはいえ、完全燃焼の山行でした。初心者の私を力強く引っ張ってくれたSさんに感謝。
もし自分がアイスがもうちょっとうまければ、アルパイン慣れしていれば、もっと早く抜けられたと思う。
SさんはSさんで、もっと早く出発すれば良かった、とか、反省点は色々あるそうだ。また、黄蓮谷右俣は山岳ガイドがお客さんを案内するルートである。SさんがSさんの先輩に言われたのが、体力不足だということ。「ガイドとして、もっと体力をつけて、ガンガンロープ出して安全に先導するべき」との言葉をいただいたそうだ。
私にとってSさんはすごい先輩だが、「山岳ガイド」を目指すなら、想定するならば、さらに早いスピードでロープ出して時間以内に対応しなきゃいけないし、しているって事なんだよな。山岳ガイドってすごいと思った…。
黄蓮谷右俣は素晴らしいルートだった。体力・技術、雪山の総合力を試されるルートだと思う。山岳ガイドやアルパインクライマーで毎年何度も通っている人がいる理由が分かる気がした。
私ももっとレベルアップして、再訪したいです。
甲斐駒ヶ岳でのアイスクライミングは八ヶ岳とは別であることを花谷泰広さんが言っていた。