妊娠中の登山は「控えるべき」とされていますが、家に引きこもっていても妊娠出産に関わるリスクがゼロになるわけではないと思います。
登山を控えて、家でおとなしくしていても、ストレスに苛まれて飲酒喫煙したり、生魚食べたり、カフェイン過剰摂取などに手を出してしまっては、元も子もない気がします。これらのリスクは登山以上に気楽なので、「このくらい大丈夫だよね。」と安易に手を出しやすく、子どもの命をあっさりとリスクに委ねることになると思います。
妊娠出産に関わる色々なリスクを把握した上で、どういった選択をしてどんな生活を送れば、最もバランス良く健康的に過ごせるか考えることが大事なのかなと思いました。
私にとってのリスクは「家にいること」でした。今まで登山が生きがいだったため家にいると何もすることがなく、暴飲暴食に走って不摂生をしてしまいます…。パソコンを1日やっていて目が疲れて夜眠れなくなることもありました。
なるべく外出することを考えて、水族館や温泉に行ったりもしましたが、お金がかかるし、なんだかんだ良い食事して太ります。(笑)
色々考えた結果、私にとっては定期的に「登山」に出かけるのが、運動にもなるし、楽しいし、健全であると思いました。妊娠中にあちこち登山へ行けて良いリフレッシュになったなと思っています。
当記事では、私自身が妊娠中にストレス発散を目的として行った山歩きの体験を記録しています。これはやり過ぎたな〜とか、これは良かったな〜とか感じたことの備忘録です。
今、振り返ってみて一番大事なのは「本能に従うこと」だと思いました。体調が悪い時は無理せず休むことです。お腹が張ったりしていて、体調が悪いのに「どうしても行きたい!」という気持ちで山へ登ってしまうと、リスクがかなり高くなると思います。
私について
プロフィール
• 職業:登山ガイド(自営業)
• 今年の仕事計画:月10日ガイド、それ以外は在宅ワークまたは休み
• 妊娠中の仕事状況:妊娠6ヶ月目(20週目)から完全休業
• 移動手段:主に車
私がプロフィールを紹介したのは、生活スタイルによって、妊娠中にどれだけ登山ができるかは人それぞれ異なると思ったからです。特に仕事との兼ね合いが一番重要だと思います。
私の場合は、今年はたまたま仕事が控えめで、ガイド山行は平均して月10日程度(それ以外は休みか事務作業)でしたので、つわりの時期もなんとか仕事に穴を開けずに乗り切ることができました。
6ヶ月目(20週頃)からは完全休業でした。そのため、疲れている日は10時間以上眠ったりとストレスなく自由な時間を過ごすことができました。
会社勤めで産休を取る場合は、予定日の6週間前(34週頃)から休むのが一般的なようで、元気な人は臨月まで仕事している人もいるそうです。
周りの友達の話を聞くと、妊娠中の立ち仕事が大変だとか、通勤電車がしんどいという話を聞きます。私も妊娠中に2度、都心へ向かいましたが、電車は本当にきつかったです。(マタニティーマークつけていても、譲ってくれないし、こちらもなんとなく遠慮してアピールできません。笑)
たった20分の乗車でもきつくて、人口密度も高く、登山よりも大変だし疲れる環境でした。
休日にどれくらい登山を楽しめるかは、いかにこの日常のストレス・疲労を軽減するかが、正直かなり影響すると思います。
「自分の生活を無理なくこなしたうえで、心身ともに余裕があれば山を楽しめる」と思います。
登山におけるリスク
産婦人科の先生に、以下のリスクを指摘されました。
①お腹が張るリスク
②転倒のリスク
③いざという時に病院へすぐにかかれないリスク
①②はスポーツ全般に言えることで、③は登山ならではのリスクです。
無理をすることで胎児が流産してしまう危険性があります。
お腹が張るリスク・転倒のリスク
より負荷の高い「妊娠中のマラソン」に関する記事も参考にしつつ、以下のルールを守りながら登山を行いました。
①こまめに水分補給をする
②トイレを我慢しない
③息切れしないペースを保つ
④転倒のリスクが低い安全なコースを選ぶ
⑤疲れたら無理せず休む(登山自体を控える場合も含む)
①②に関しては山中での心掛けですが、③〜⑤は計画の段階で考えていく必要があります。
対策1:登山レベルを考える
まず考えたのは、「行ける山を考える」ことです。
自分の体力・経験・体調を基準にして
③息切れしないペースを保つ
④転倒のリスクが低い安全なコースを選ぶ
をクリアできる山を選びました。
私の登山スキル・活動状況
• 重い荷物を担ぐのが得意
• コースタイム0.7~0.8倍のペースで歩行可能
• 沢登りや山スキーがメインで、テント泊縦走も好き
• 年間入山日数:150~200日(仕事含む)
以下は、私が妊娠中に登れる・登れないと判断した登山内容の例です。転倒や流産のリスクを避けるため、挑戦的な登山はすべて諦めています。↓
妊娠周期 | 該当月 | 諦めたもの | 行けるもの |
---|---|---|---|
妊娠初期 (2ヶ月目〜4ヶ月目) | 6月〜8月 | 沢登り(4級以上) フリークライミング全般 | 小屋泊の一般登山道 沢登り(3級程度) |
妊娠中期 (5ヶ月目〜6ヶ月目) | 9月〜10月 | ボルダリング全般 波線ルート | 里山ハイキング 小屋泊の一般登山道 沢登り(2級程度) |
妊娠中期 (7ヶ月目〜8ヶ月目) | 11月〜12月 | 沢登り全般 一般登山 | 里山ハイキング |
妊娠後期 (9ヶ月目) | 1月 | 里山ハイキング (標高差450m程度) | 里山ハイキング (標高差100m程度) |
臨月 | 2月 | 全て | なし |
※上記は私個人の経験に基づく基準です。また、緊急時に病院へかかれないリスクは考慮していません。
諦めた理由
• 難易度が実力と同等かそれ以上で、ルート状況の不確定要素が多い
• 体力に不安がある
・転倒などのリスク回避に自信が持てない
• 他人に迷惑をかける恐れがある(例:グループ研修など)
行けると思った理由
• 過去に同等レベルより上の山行経験が多くあり、ルート状況や難易度が容易に予測できる
・標高差は許容範囲で、体力に問題ない
・転倒などのリスクを十分に回避できる自信がある
リスクの許容範囲は人によって違う
リスクの許容範囲は人によって異なります。
これは妊娠中に限らず、登山全般に当てはまる話です。クライマーの友達は妊娠7ヶ月目までフリークライミングを続けていましたが、私には無理だと思ったので、妊娠初期からクライミングは諦めています。
私自身の中でも、「少しでも不安を感じた山行」はリスクにつながる可能性が高いと判断し、諦めました。
未経験者が「高尾山を登れるかな?」と感じる不安と、経験者が「気分転換に高尾山を歩こう」と考える気軽さでは、大きな違いがあると思います。
対策2:妊娠経過を確認する
妊婦健診で胎児の発育が好調なことを都度確認しました。私は登山の翌日に検診を入れることが多く、そこで「順調ですね。」と言われると安心していました。
医者には職業が登山ガイドということと、山が好きということは事前に伝えており、こまめに報告を行っていました。
対策3:気心の知れた人と登る
妊婦であることを理解し、無理のないペースで付き合ってくれる人と一緒に登山しました。夫と登ることが多かったです。
対策4:荷物を軽くする
なるべく軽量化を心掛け、登山中の負担を軽減しました。妊娠7ヶ月目以降は全ての荷物を夫に担いでもらいました。
対策5:ブランク期間に注意
体感の話になりますが、定期的に登っている方が体力の低下を抑えられて長く登山を楽しめると思いました。もちろん体調との相談で自分のペースで継続してゆくのが前提です。
いざという時に病院にすぐにかかれないリスク
まずは「お腹が張るリスク・転倒のリスク」を最小限に抑えて、無理せず余裕のある登山を楽しむのが最も重要で、病院にかからなければならない可能性を低くすることができると思います。
登山は山でのアクティビティなので、このリスクをゼロにするのは難しいです。
日帰り登山は、体調が悪化した場合にすぐ引き返せるため、比較的安心して行えたものの、泊まりの登山はリスク管理が難しいと感じました。
泊まり山行での、最低限のリスク管理としては、日帰りで登れるような山を1泊や2泊でのんびり登ると体力的に余裕があり、精神的にはかなり安心感がありました。(私の場合、具体的には1日のコースタイム2〜4時間程度。)
また、エスケープルートが多くて、下山までの時間が短く街が近い山域の時も安心感がありました。

日本アルプスの奥地などは、一度入ってしまえば下山に1日以上かかります。街に出るまで数時間かかるような山は、ただただ毎日自分の体調を確認し「元気である」ことを確認しながら登るくらいしか出来ませんでした。
もし異常があったら、自力で下山するか、山小屋で連泊するしかなかったと思います。結果的に登山中は何事もありませんでした。何かあった場合、どんな目に遭っていたかは分かりません。
正直、4泊5日とかで奥地に入るような登山はオススメできません。

私のブログにコメントをくださった方は、「携帯電波の入る山域」「山小屋の間隔が近いコース」を基準に選んでいたそうです。
色々な条件を考えると、例えば八方尾根、木曽駒カール、八甲田、立山室堂、北八ヶ岳あたりはロープウェイがあるし、アクセスがよくてすぐに下山できるので安心感あるのかなと思ったりしました。(決して推奨している訳ではなく、他の山域に比べたらまだマシという意味です。)
その他、実際登ってみての感想
標高の高い山
妊娠中に登った、最も標高の高い山は4ヶ月目に登った「富士山」です。
佐藤小屋(標高2,230m)で1泊し、翌日山頂へ登って帰りました。私の場合は、山頂でも全く息切れしなかったため、元気でした。下山後も胎児の発育は順調でした。
標高が高いと、酸素が薄い=赤ちゃんに酸素が行き渡らない=脳障害・発育不全というリスクがあります。
後々考えると、息切れしてないからって果たして本当に大丈夫なのだろうか?と少し不安になってしまいました。
文献によると、標高2,000m程度では問題ないそうですが、標高3,500mを超えてくると、血中酸素濃度が低下してくるそうです。登山する前に医者に「息切れしないなら、標高の高い山に登っても平気ですか?血中酸素濃度はどれくらいを維持するべきですか?」と事前に確認しておけばよかったと思いました。登山中にパルスオキシメーターを活用してもよかったかもしれません。
高温多湿の山
何度か夏の午前中に、家の近所の里山に2〜3時間ほどのハイキングに出かけましたが、キツかったです。新潟特有の高温・多湿な環境で、すぐに疲れてしまいました。むしろ標高の高い山よりも息が上がりやすく、かなりゆっくり歩きました。
妊婦になると暑さに対する耐性が低くなる気がします。日差しが強いと結構しんどいです。
涼しい山・快適な時期を選んで登ったほうが良いです。(10月に入ってからは新潟の低山も涼しくなり快適に楽しむことができました。)
↓キツかった山
おすすめの本
『岳人』2007年10月号 No.724
特集で妊娠中の登山についてアンケート結果がまとめられています。私と同様に適度に楽しんでいる方が多かったですが、中には無理して入院してしまったというお話もありました。読める機会があればぜひ手にとってみてください。

終わりに
あくまでも備忘録、ということで実体験をまとめてみました。
冒頭にも書いたように、一番大事なのは「自分の体調としっかり向き合う」ことだと思います。身体が疲れているのに、「行きたい!行きたい!」という気持ちだけで無理して登るのは絶対にやめたほうが良いと思います。
私は妊娠中に結構登山を楽しんだ方だと思いますが、臨月に入ってからは一切登っていません。お腹がパンパンになり張りやすくなったので、「こんな身体で登るなんて無理ー。」としか思えませんでした。あとは、運動すると早く生まれるというジンクスがありますが、私はなるべく予定日に近い日に産みたい気持ちがあり大人しくしていました。笑(結果的に予定日の2日前に産まれました。)
臨月でも元気にハイキング行っていた山仲間たちはすごいと思います。
また、緊急時の入院に備えて、妊婦保険に入っておくのも手だと思います。(自治体によっては妊娠中の自己負担の保険診療を全額負担してくれる場合もあります。)
あくまでも自己責任になってしまいますが、私は私なりに登山を(ガイド業を含めて)楽しめてよかったなと思いました。
妊娠中に登った山一覧
合計79日
妊娠月数 | 出産予定日まで | 日付 | 種類 | 行先 | 日数 |
---|---|---|---|---|---|
1ヶ月 (0週1日) | 279日 | 2024/05/21 | 検定・講習 | 尾瀬ヶ原 | 1 |
1ヶ月 (0週2日) | 278日 | 2024/05/22-23 | 沢登り | 会越周遊 蒲生川〜室谷川 | 2 |
1ヶ月 (0週5日) | 275日 | 2024/05/25-27 | 縦走 | 谷川主稜線 | 3 |
1ヶ月 (1週3日) | 270日 | 2024/05/30 | ハイキング | 浅草岳 | 1 |
1ヶ月 (1週4日) | 269日 | 2024/05/31 | ハイキング | 尾瀬ヶ原 | 1 |
1ヶ月 (1週5日) | 268日 | 2024/06/01 | PH | 巻機山 | 1 |
1ヶ月 (2週0日) | 266日 | 2024/06/03-04 | PH | 巻機山 | 2 |
1ヶ月 (2週2日) | 264日 | 2024/06/05 | ハイキング | 尾瀬ヶ原 | 1 |
1ヶ月 (2週4日) | 262日 | 2024/06/07 | ハイキング | 尾瀬ヶ原 | 1 |
1ヶ月 (2週5日) | 261日 | 2024/06/08-09 | PH | 巻機山 | 2 |
1ヶ月 (3週2日) | 257日 | 2024/06/12-14 | ハイキング | 尾瀬ヶ原 | 3 |
1ヶ月 (3週6日) | 253日 | 2024/06/16 | ハイキング | 黒姫山 | 1 |
2ヶ月 (4週0日) | 252日 | 2024/06/17 | PH | グシガハナ〜越後駒ヶ岳 | 1 |
2ヶ月 (4週2日) | 250日 | 2024/06/19-20 | 沢登り | 2 | |
2ヶ月 (4週5日) | 247日 | 2024/06/22 | 沢登り | 村杉半島 只見川白沢~岡沢 | 1 |
2ヶ月 (5週0日) | 245日 | 2024/06/24-26 | PH | 北岳 | 3 |
2ヶ月 (5週4日) | 241日 | 2024/06/28-30 | 縦走 | 谷川連峰馬蹄形縦走 | 3 |
2ヶ月 (6週5日) | 233日 | 2024/07/06-07 | PH | 門内岳 | 2 |
3ヶ月 (8週6日) | 218日 | 2024/07/21-23 | PH | 苗場山 | 3 |
3ヶ月 (10週0日) | 210日 | 2024/07/29 | 沢登り | 姥沢川 南ノ入り沢右俣 | 1 |
3ヶ月 (10週4日) | 206日 | 2024/08/02-03 | 沢登り | 楢俣川後深沢~至仏山〜狩小屋沢 | 2 |
3ヶ月 (11週4日) | 199日 | 2024/08/09 | ハイキング | 坂戸山 | 1 |
4ヶ月 (12週2日) | 194日 | 2024/08/14-15 | PH | 富士山 | 2 |
4ヶ月 (12週6日) | 190日 | 2024/08/18-21 | 縦走 | 高天原&雲ノ平 | 4 |
4ヶ月 (14週5日) | 177日 | 2024/08/31 | ハイキング | 魚沼アルプス 駒の頭〜トヤの頭 | 1 |
4ヶ月 (14週6日) | 176日 | 2024/09/01 | 沢登り | 三国川黒又沢日向沢 | 1 |
4ヶ月 (15週2日) | 173日 | 2024/09/04-08 | 縦走 | 聖岳&光岳 | 5 |
5ヶ月 (16週2日) | 166日 | 2024/09/11-12 | 縦走 | 悪沢岳〜中岳避難小屋 | 2 |
5ヶ月 (17週1日) | 160日 | 2024/09/17-18 | 縦走 | 小河内岳避難小屋 | 2 |
5ヶ月 (17週4日) | 157日 | 2024/09/20 | ハイキング | 六万騎山 | 1 |
5ヶ月 (18週1日) | 153日 | 2024/09/24-25 | 沢登り | 叶津川 餅井戸沢フンギリ沢 | 2 |
5ヶ月 (19週3日) | 144日 | 2024/10/03-04 | PH | 越後駒ヶ岳 | 2 |
5ヶ月 (19週6日) | 141日 | 2024/10/06-08 | PH | 平ヶ岳&越後駒ヶ岳 | 2 |
6ヶ月 (20週5日) | 135日 | 2024/10/12-14 | PH | 苗場山 | 3 |
6ヶ月 (21週4日) | 129日 | 2024/10/18 | PH | 八海山 新開道往復 | 1 |
6ヶ月 (22週5日) | 121日 | 2024/10/26 | 沢登り | 巻機山天狗岩下部スラブ〜三嵓沢 | 1 |
6ヶ月 (22週6日) | 120日 | 2024/10/27 | PH | 金城山 水無〜滝入 | 1 |
6ヶ月 (23週4日) | 115日 | 2024/11/01 | ハイキング | 親柄薬師山 | 1 |
6ヶ月 (23週6日) | 113日 | 2024/11/03 | ハイキング | キノコキャンプ | 1 |
7ヶ月 (24週0日) | 112日 | 2024/11/04 | PH | 下権現堂山〜上権現堂山 | 1 |
7ヶ月 (24週5日) | 107日 | 2024/11/09 | ハイキング | 御嶽山(魚沼市) | 0 |
7ヶ月 (24週5日) | 107日 | 2024/11/09 | ハイキング | 駒見山〜あいの峰〜房ヶ沢山 | 1 |
7ヶ月 (25週3日) | 102日 | 2024/11/14 | ハイキング | 古峰山 | 1 |
7ヶ月 (25週6日) | 99日 | 2024/11/17 | ハイキング | 愛宕山(塩沢) | 1 |
9ヶ月 (32週2日) | 54日 | 2025/01/01 | ハイキング | あいの峰~駒見山~藤権現 | 1 |
9ヶ月 (33週0日) | 49日 | 2025/01/06 | ハイキング | 俎板平城跡(薬師堂まで) | 1 |
9ヶ月 (34週3日) | 39日 | 2025/01/16 | ハイキング | 坊谷山 | 1 |
9ヶ月 (34週6日) | 36日 | 2025/01/19 | ハイキング | 愛宕山(塩沢) | 1 |
10ヶ月 (36週0日) | 28日 | 2025/01/27 | ハイキング | 親柄薬師山 | 1 |