2022年2月15日(火)〜17日(木) 谷川岳天神尾根、赤沢山周辺地形
宿泊 : 土合山の家
講習生 7人 + 講師 3人
3日間で、JAN(日本雪崩ネットワーク)主催の雪の安全管理講習会に参加してきた。
この講習会は、現在私が受験している「日本山岳ガイド協会 登山ガイドステージⅡ」の二次試験「雪の安全管理試験」の免除規程に該当する。この講習会の修了者は講師に推薦を受ければ該当の二次試験を免除してもらうことができる。
「雪の安全管理試験」の免除講習は、JANの、この講習会のみである。
私は、普段からJANの雪崩情報や事故報告を参考にさせてもらっている。ガイド試験としてだけなく、いち冬山登山者としてもこの講習会に興味があった。ぜひ雪のスペシャリスト出川あずささんに教わりたいと思ったので、お金はかかるが今回は検定試験の受験ではなくこちらの免除講習会に参加させていただくことにした。
講習会といえど、検定試験のような内容もあり、合否判定はきっちりある。
心して取り組まなければいけない。
【ざっくり日程】
初日:座学、ビーコン訓練、ピットチェック、積雪観察とか
2日目:屋外にて実施講習(ルートガイディング 、積雪観察、気象観察、捜索救助訓練)、筆記試験
3日目:屋外にて実施講習、(ルートガイディング 、積雪観察、気象観察)、ビーコン試験
【参考書籍】
・増補改訂 山岳ユーザーの為の雪崩リスク軽減の手引き – 出川あずさ・池田慎二
・雪崩事故事例集 190 – 出川あずさ
・雪の安全管理・雪崩対策技術教本 – 公益社団法人日本山岳ガイド協会
全体の感想
本を読めば、ある程度の雪崩知識を身につけることができるが、本だけの知識には限界がありそれ以上雪崩を深く理解することは出来ない。
より雪崩に対する知識を習熟させるためには、実際の登山中に色々な事に目を配り行動していく事が大切だと感じた。
今回、現場で実施すべきこととして「気象観察」「積雪観察」「捜索救助」などを教わった。(登山ガイドとしての「ガイディング」も。)
「雪崩ハザード・ワークシート」を出発前と下山後に記入。
出発前に気象状況の確認、昨日の天気や積雪状況も加味して本日起こりうる雪崩の予想と、それに対してどう行動するかの計画を立てる。
下山後には、今日の行動の反省と、行動中に目撃した雪崩の記録、積雪状況、テスト結果などを記入。
予想と現実はどのような違いがあったかを見直す。
「講習会」ということもあり、最初から最後まで雪崩などの雪山のリスクについて考え続けた3日間だった。
思ったのは、こうやって実際に考えてみること、考え続けることの大切さだ。
日本雪崩ネットワークのプロフェッショナルと、私のような一般人との大きな違いは、明らかに現場での経験だ。
私が山へ行く時は、周囲で見かけた「雪崩」には注目するようにしていたが、気象観察や積雪観察は小難しいイメージがありあまり取り組んでいなかった。
やってしまえば、そこまで難しくない。積雪観察はやや手間がかかるが、気象観察は意外と手軽に出来た。例えるなら沢登りで遡行図を書くようなもんだ。
今後の課題は、とにかく現場で気象や雪に触れること。
雪崩について知識を深めたいという気持ちを持って、個人山行でもそうした活動に積極的に取り組んでいきたい。
レスキュー訓練に関しては完全な非力さを感じた。
グループでの捜索については独学は限界を感じた。JAN主催の講習会にまた参加しようと思った。
要点まとめ
3日間の講習会はかなり濃密だった。当記事は私の備忘録で要点のみ記述。
感想にも記したが、スペシャリストに学ぶとやはり吸収が違う。本で読むだけでは限界がある。
雪崩に対する知識を深めたいなら、やはり講習会に参加するべきだと思った。
※今回は登山ガイドを目指している人向けの講習会だが、他にも色々ある。
最も手軽なのが「アバランチナイト」(コロナで最近はオンラインで無料開催をしている)
雪崩の安全対策を全体的に学ぶのが「セイフティキャンプ」、雪崩捜索救助に特化した講習会が「AvSAR」(アブサーと読むらしい)。
雪崩観察
雪崩を目撃したら↓のような感じでメモをした。
10:50、南、S(面発生)、1.5(雪崩規模)、Na(自然発生)、co1,400付近
雪崩規模について。サイズ1は人間への危害はなし、サイズ2は人が埋まったり怪我したり死ぬ可能性がある規模。
もし写真の雪崩に巻き込まれたら、傾斜も急だし岩や木にぶつかれば命を落としてしまいそうだが、破断面自体は浅く、深く埋没する見込みは低い。
雪崩規模は地形の罠を含めず、純粋な雪崩のサイズとのことだったのでサイズ1.5とした。
気象観察
気温測定は、直射日光の当たらない場所、車など障害物が近くにない場所。自身を日除けにして測定する。
JANの耐水フィールドブックに鉛筆もしくはシャープペンでメモ。(字が汚いのはご了承ください。笑)
未測定の項目も未測定だと分かるようにしておく。
(コメント欄には、観察した雪崩を記録)
雪面や地形状況によって気象を考えることも出来る。
積雪観察
・安全な場所で行う。
・何を知りたいのか?を明確にする。
・プロービングして積雪内に障害物が無いか確認する。
・木の近くは避ける。(積雪内に小枝などが入っている可能性が高いため)
使用した道具
クリスタルスクリーン、ルーラー、雪温計、ルーペ、斜度計
積雪観察をするにあたり必要な装備は上の通り。
積雪観察をしていないと通常持っていない装備である。bcaのスノースタディキットというのが1万円程度で販売しており、必要装備を一気に揃えることができる。
・・・が、私はこのセットにちょっと不満を感じている。笑
雪温計がアナログ式ということだ。雪温を小数点第一位まで細かく測定したいのに、アナログではそれがやりづらい。
アナログ雪温計は既に1つ持っているし、ルーぺも持っているし、スノースタディキットを買ってしまうとチマチマ道具が被るので今回は不足している道具たちを個別に購入した。在庫切れが多く、結構大変だった。
ただでさえ集めづらい道具たちをひとまとめにしたスノースタディーキットはお得でありがたいのは確かだ。講習会で使用するならスノースタディキットだけを購入すれば良いと思うが、ただ今後本格的に積雪観察をしていきたいならデジタル温度計も別途購入すべきなのもまた事実だ。講師の方々もアナログではなくデジタルを推奨していた。
私の持っているギアは以下の通り。
bca ポリカードネート クリスタル カード
雪を観察する際、手袋に載っけるとすぐ溶けてしまうので、このカードの上に載っけて観察する。
スノースタディーキットに入っているのは黒色の、おそらくアルミ製のクリスタルカードだがこれはポリカードネート製。アルミよりも多くの放射線を吸収しない為、雪の結晶をより長く正確に研究できるらしい。(購入場所:K2 SPORTS – POLYCARBONATE CRYSTAL CARD)
bca 2Mルーラー
積雪深の測定に使用。使えば分かるが、プローブとはまた違う。必要な長さだけ伸ばして使えるので便利。(購入場所:spirit – 2Mルーラー)
TOKO デジタル体温計 ( 雪温計 )
私が購入したのはこれ。使いやすいけど、割と頻繁に勝手に電源が入る。笑
デジタル温度計も「正確さ」が商品によってまちまちなので、商品レビュー熟読の上購入することを勧めます。
※講師の皆さんが「タニタ」というワードを発していた。これ↓もアリかも。(というよりこれを買えば良かったか?笑)
-50度〜250度対応、小数点第一位も表示されるので雪温測定もやりやすそうですね。↓
斜度計 (bca Slope Meter スロープメーター )
斜度計、またの名を「スロープメーター」と呼ぶ。これも以前カモシカセールで購入したのだが、いつの間にやらガラスが割れて壊れてしまった。今回二度目の購入。約3千円だが、失礼だが3千円に思えない程安っぽい作りである。付属のコンパスもあまり機能しなそう。(購入場所: bca Slope Meter/スロープメーター)
安っぽいとはいえ使い勝手は良かったので再度同じものを購入したが、ネットをよく探せば他にも代用可能な良い商品があるとは思う。
ルーぺ
私の持っているものはこれ↓5千円となっているが、こんなに高かったけ?
今思えば、屋外での積雪観察で使うにはオーバースペックかもしれない。ルーペは色々売っているのでもっとシンプルで軽くて壊れづらいものを購入すれば良いと思う。倍率は10倍。手で持って使うものではなくて、置いて使えるものを買う。
※私は10倍ルーペだが15倍ルーペとかでも良いと思う。
モノタロウ – ルーペ 15倍
モノタロウ – ルーぺ 10倍
層観察、雪粒観察
・日陰で行う。
・テムレスは表面に小さなボコボコがある為積雪観察には不向き。皮グローブで行う。
・雪温を測るのはデジタル温度計の方が分かりやすい。
間違いだらけでもはやグチャグチャ〜。私にしか解読不能だと思われる。笑
向かって左側は、積雪の層構造。深さ何センチから何センチまでは「こしまり雪」とかを記録。
雪質はルーペで確認して判断。見分け方を教えてもらって、「新雪」「こしまり雪」「しまり雪」「ザラメ雪」については、なんとなくだけど分かるようになったかも。雪質によって粒径が違うのもポイント。
※◎が2つのやつは「融解凍結クラスト」の記号。観測したのは「凍結したザラメ雪」だったのでノートには○と記述するのが正解だと思う。
向かって右は、10cm間隔の雪温をチェック。コメントページはコンプレッションテスト及びバープテストの結果記録。発生した層と同じ行に記録する。
コンプレッションテスト
・最上部の新雪の不安定さを調べる場合→バープテストの実施。
CTH 4回目(全体で24回目)で、24cm部分、融解凍結層(凍ったザラメ雪)の下部分がずれた。
→ズレたブロックを手で引き出すと、ブロックはバラバラと崩れた。ブロック下の面はボコボコ。
※CT→コンプレッションテスト H→Hard 腕全体を使い拳でしっかり叩く
【これはどんな状態?】
・雪が溶けて凍ると、隙間が多くなる。凍ったザラメ雪には隙間が多い。スコップで上から叩くことにより、隙間が潰れて、ブロックがズレた。
・面発生雪崩を発生させる弱層には伝播性が必要。一部分の弱層破壊が積雪内部で広がり、下支えのなくなった雪が滑り落ちる。
→今回のテストでは層が潰れただけ。ブロックを引き出すと崩れ、下の面がボコボコだったことからも伝播性が無いことが分かる。このような雪は弱層とは呼ばない。
(個人的考え:弱層となる雪には伝播性のある、スラブのような性質が必要?)
個人的にはなるほどと思った。
叩いてズレたから弱層がある?!という訳でない。雪の状態、どんな風にズレたのか、ブロックはどんな状態なのかを考えて一つ一つ、判断していく。
今回のケースも数あるパターンの内の1つなんだろうな。まだまだ知らないことがたくさんありそう。
難しいなぁ〜と思うと同時に、こういう事は知っている人に教えて貰わなければ永遠に分からない事だったので、講習会を受けて、専門家に質問することが出来て良かったと思った。
※測定においては、「分からないこと」「測定していないこと」を明確にすることが大切。
資料データを作成する場合などは「西面での限定的な測定」などの一文を添える。
※追記
日本雪崩ネットワークの雪崩情報に良い文章があったので、下に引用します。
以下、2022年2月19日の白馬の雪崩情報より(引用元)
その不安定性を弱層テストで判断しようとする人もいるかも知れませんが、おすすめできません。必要なのは常識です。山の斜面は巨大です。30 cmの四角柱に人生を掛けないように。そんなもの一つでわかるぐらないなら、とっくに雪崩事故はなくなっています。雪崩リスクマネジメントの最重要点は、わからないものの程度にあわせて、地形を使った安全マージンを取ることであって、不安定性を正確に見積もることではありません。地形の罠のないシンプルな地形、日射や風の影響の弱い斜面であれば、とても良いコンディションのパウダーが楽しめる日です。安全な場所で止まる、一人ずつ滑る、滑る人を見守るといった安全行動を続けてください。それが万が一のときの事故を小さくします。良い一日を。
日本雪崩ネットワーク – 2022年2月19日 白馬 雪崩情報
ビーコンサーチ
・斜面に対して垂直にプローブを刺す。(平地と斜面ではビーコン捜索の難易度も違うので両方練習した方が良いと思った。)
・慌てない、落ち着いてやる。
事前に告知のある通り、「30m×30mで70cm程の深さに埋没したビーコン2個を5分以内に特定」するテストを受けた。
ガイディング関係
・目で見える地形だけでなく見えない地形にも注意を払う。
・ハザードにさらされる時間を極力減らす。セーフティな場所に客を誘導。
・行動中は最低限以下の4つを意識する。
①今いる場所は大丈夫か?
②大丈夫の理由は?
③もし雪崩たらどうなる?
④他に選択肢はあるか?
☆ガイディングについても今回とても参考になった。色々とご指摘いただいたので、今後の課題として能力向上に努めていきたい。仲間と歩くのとお客さんを連れていくのとでは違う。細やかな気遣いを心がけたい。
屋外での実施講習中にもツェルト設営やロープワーク諸々も実施。ツェルト設営でちょこっと褒められたのは嬉しかった。笑
※一応メモしておくと、積雪期はツェルトのサイド壁の細引きも張った方が良いと思う。ツェルトの四隅を整えるだけでは、降雪でツェルトの両サイドが潰れて室内が狭くなるし、ビバークしたとしてツェルト内でガスを使いたくても、壁が近くてツェルトを燃やしそうになると思う。(積雪期ツェルト泊の記録)
ガイド試験では無雪期も今回の講習会でもサイドも張っている人は、意外といなくてもはや私だけだった。笑
試験は15分以内に設営するのが目的で、サイドを張らなくても不合格になったりはしないんだろうけど、実践を考えると、そういう細かいところも妥協せずにちゃんとやりたいなぁと私個人的には思ってしまう・・・。
凸状斜面。崖だけでなく、その上部にも雪崩ハザードが潜んでいることを理解する。
ひとこと
充実の3日間だったが、今回はあくまでも検定要素あり。まだ合否は不明・・・。
1月に受けた二次試験3つは無事合格したので、残すはこの講習会の結果のみ。
合格していることを祈ります。😅
登山者と山スキーヤー
ビーコンの携帯率は山スキー 、山ボードをやっている人たちの方が高く、登山者でビーコンを持っている人はまだまだ少ないようだ。
雪崩に対する意識は山スキーヤー・ボーダーの方が高いといえる。
登山者がなぜビーコンを持たないのか?尾根を歩くから安心なのだろうか。しかし尾根でも雪崩は発生するのが現実だ。
とか、今なら問題意識を感じるが・・・。
実際のところ、私が雪崩についてなんとなく理解出来るようになってきたのは、山スキーを始めてからで、それまで雪山歩きだけしていた頃は「雪崩」とはもはや未知のものでただただ怖かった記憶がある。
初めて目撃した雪崩は、GWの涸沢カールでの北穂沢での点発生雪崩だが、その時は激しく動揺した記憶がある。
今思えば、GWの涸沢カールの雪崩は予測しやすい部類に入ると思う。今でこそ今年のGWは怖いな、とか薄ら分かるが、当時は本当に雪崩予測というものが出来なかった・・・。
当時の自分は、雪崩に対する恐怖を感じていたが、その問題に対して何をすれば良いのかまるで分からなかった気がする。
もし自分がガイドになり誰かを山に連れていく立場になった時、お客さんの中には過去の私のように雪崩に対して得体の知れない恐怖を感じている人もいたりするのだろうか。
もし、そういう人がいたら、的確なアドバイスをちゃんと出来たらなぁと思う。
最低限の雪崩知識やある程度の予測能力は、いざという時自身の身を守るのに大切だ。
知識や根拠のある「正しい恐怖心」を持てるようになれば、きっと雪崩に対する考え方は変わるはずだ。
そのためには、まずは自分の経験知識向上に努めていきたい。訳分からん人に説教されても、私だったら聞く耳持たないと思う。笑
周りに信頼されるような実績を積み上げていかないと、と思います。
↓得体の知れない雪崩に恐怖を抱き、途中敗退した記録
お勧め装備
マムート(MAMMUT) Barryvox S
bca(ビーシーエー) STEALTH 270 AVALANCHE PROBE ステルス270 アバランチ プローブ
私が持っているのはマムートのプローブだが、他の人が持っているこのプローブが圧倒的に分かりやすかった。色と、数字の大きさが良い。これを買っておけば良かった・・・。余裕があれば買い直したい。笑