2021年10月9日(土)
7:20 雨池橋 – 9:20 西沢出合 – 10:50 標高点1,130m (幕営)
2021年10月10日(日)
5:40 標高点1,130m – 6:00 西沢入渓 – 沖ノ巻倉沢出合 – 9:05 CO1,350m二俣 – 11:10 稜線 – 11:40 藤原山 – 下り上り沢 – 14:10 CO1,340m二俣 – 16:40 西沢合流(標高点1,130m) – 18:00 西沢出合 – 19:50 雨池橋
メンバー : 3人(Waka : フェルト、Kさん : ラバー、パイセン : ラバー)
※手強いヌメが多いのでフェルトがおすすめ。
装備 : 50mロープ , 40mフローティングロープ , カム・ナッツ・ハーケン類、捨て縄、チェーンスパイク
天気 : 1日目 雨のち曇り時々雨 , 2日目 霧のち晴れ
沖ノ巻倉沢は、上越国境稜線にある藤原山の北側に位置する沢である。
インターネットにはまるで情報の無い渓に、一番に興味を示したのはKさんだ。どうやら手持ちの渓谷遡行集に約40年前に遡行した記録が載っていたそうだ。短い文章の中にある「美事なゴルジュ」という一文に心惹かれ、実物を確かめてみたくなったようだ。
Kさんの以前からの山仲間であるパイセンと、3人で沖ノ巻倉沢遡行に乗り出した。
1日目 : 中ノ俣林道 〜 西沢林道
夜明けと共に出発するべく、朝4:00に目覚ましをかけたものの、外は雨。
雨が降り止むのを待って、7:20雨池橋から中ノ岐林道へ入る。目指すは西沢出合だ。左に見える中ノ岐川には見事な大ナメが続いている。林道下に見える渓相を楽しみながらひたすら歩を進める。時折雨がパラついた。9:20、ちょうど2時間で西沢出合に到着。

40年前の遡行記録によると、どうやら西沢の左岸に沿って林道が伸びているらしい。国土地理院地図にも、手持ちの山岳地図にも道の表記が無かったので期待していなかったが、様子を伺うと藪の隙間に続く踏み跡が見えた。西沢を遡行するよりもこちらが早いだろうと判断し、林道を進む。
藪がボサいものの、踏み跡自体は意外と明瞭で、釣り師なのか、獣なのかは分からないが、今も使われていることが窺える。道中、割と新しいペットボトルのゴミが落ちていたのには驚いた。(帰りに回収)

2度程、沢の横断を交えて、10:50標高点1,130m付近まで進んだ。ここはちょうど下降に使う予定である「下り上り沢」の出合でもある。林道なので地面が平らで幕営に適している。
今から、全装備を担いで沖ノ巻倉沢に突っ込むか、ここで幕営して明日不要荷物をデポしてアタックするか。この先、良い幕場が見つかるかも分からないので、後者を選択。
西沢に降りて様子を見に行ったり、細々と焚き火をやったり昼寝をしたりのんびり過ごす。19:00には全員就寝。

2日目 : 沖ノ巻倉沢 〜 下り上り沢
沖ノ巻倉沢
4時過ぎに起床。朝食、準備を済ませて5:40辺りが明るくなってきた頃に出発。
昨日の下見で西沢に降りたらけっこうヌメったので、引き続き林道からアプローチをかける。
300m程歩くと枝沢が出合う。対岸は藪ばかりで踏み跡が見当たらず、林道も途切れたようなので枝沢を下降し西沢入渓。
丁度太陽が上がってきて、空や山肌が赤く照らされる。

しばしゴーロを進むと、ゴルジュの様相になっていく。いよいよ現れた最初の滝は右から越える。深いエメラルドグリーンの沢水は見るからに冷たそう。
ゴルジュを抜けると河原。左岸には幕営できそうな河原と、1段上がると増水を凌げそうな台地があった。

6:20、二俣分岐。右俣から巻倉沢が出合っている。国土地理院地図ではがっつり雪渓マークのある場所だが、雪渓は皆無だった。左俣には沖ノ巻倉沢。いよいよ目的の沢に入渓していく。
進んでゆくと、両岸が狭まりゴルジュの様相に。足元は砂利が続き、水量も少なめ。
もしかして埋まってしまったのか?大昔は、もっと深いゴルジュだったかもしれない。
山を歩いていると、時折タイムスリップしたくなる。過去から現在に至るまでの沢の変還が強く気になってしまう。

しばし砂利ゴルジュを楽しみながら進むと、目前に小滝。ちょうど右から入っている枝沢もこれまた見事で、見上げれば高くそびえる、3段の滝が出合っていた。

滝を越えると、黒々としたゴルジュ帯。両腕を広げて横幅計測。多分2m前後かな?さっきは浅瀬だったのに、こちらは意外と深く、腰まで浸かりながら小滝を突破してゆく。もう10月だ。秋の沢水はちょっと寒い。
そのうちに目前にちょっと悪そうな5m滝が現れる。奥にも滝が続いているのが見えた。左岸の滝から巻き。足元が脆く、意外と悪い。

うまくルーファイして、落ち口のすぐ後ろに着地することができた。

順調に遡行してゆく。ゴルジュ内には倒木が散見され、荒れているポイントもある。まあこの木々もそのうち大増水とかで一掃されるんだろうな。
相変わらず側壁は高く、ゴツゴツと、黒々とした渓相は迫力がある。
ゴルジュ内に、ナメ滝が1つあったのには驚いた。この滝だけはペタペタと快適登攀。
沢はカーブがキツく、先の見通しが悪い。

その瞬間は突然だった。大きく屈曲した沢を右に曲がると、狭いゴルジュが現れた。全員がわぁっと歓声をあげる。
私が先陣きって内部に突入!
ゴルジュ内部のCS滝は、パイセンが華麗なムーブで突破。Kさんと私が後に続く。ヌメり健在でやっぱり一挙一動に気を遣う。私はフェルトだからマシだが、ラバーの2人はもっと大変だろうな。
割と登れる滝が多くて、安心していたが、目前に倒木を引っ掛けた5m滝が現れた。一見してスタンスが無く悪そうに見えたが、Kさんが「これは登れる!」と言い張るので、リードをお願いする。さすがです、無事に落ち口へ。
Kさんの荷物のみロープで上げた後、フォローで後続も続く。Kさんは倒木右から取り付いたが、我々はロープの流れ的に倒木の左から取り付き、なかなか激しいシャワークライムを強いられることとなった。小さいながらもスタンスはあり、とりあえず上まで登れたが、ヌメっているし、実質フリーソロで上がるのはやっぱり勇気が必要だと思う。Kさん、ナイスリード!
続くCS滝、まずはパイセンが挑むも、キツいヌメりにやむなく断念。ならばフェルトの私が!と挑むも、中段のスタンスが全く無くて、上がれない。かなり激しいシャワーの中で粘ったが、次第に体力が削られてゆき断念。続いてKさんが挑むが、同じく中段で手こずり、「一旦仕切り直し。」と断念して戻ってきた。
Kさんのアイデアで、滝の右側にある流木を流心に移動させた。Kさんが再びトライ。(寒いのに間髪入れず再挑戦するKさん、さすがである。笑)
流木は私が抑えておき、ちょっと高くなったスタンスでKさんが無事中段突破。その上もなかなか悪そうで激ヌメマントルをこなし、滝上へ。ナイス!

Kさんが上から「フィックスで上がるー?」と言ってきたので、このクソ寒い中手元を操作する余裕も無いのでビレイをお願いした。
一刻も早く、このシャワー滝を突破しなければ、、、死ぬ!!
Kさんがプラスアルファでお助けロープをフィックスしてくれた。全集中のゴボウ登りでサッと突破。
すぐに続く滝を2つ越えると、激ヌメ滝が現れた。一度取り付いてみる。登れる感じはあったのだが、とにかく先ほどのシャワークライミングで全身冷え切ってしまった。岩を掴む力も、足の踏ん張る力もまるで無くなってしまい、これは登り切れないかも、、、と断念。
その後にKさんが挑戦するも、ヌメにやられ、ツルッと落ちる。その衝撃でなんと前歯が欠けてしまった。。。
これは危ないので、左岸巻きを選択。
高巻き中に激ヌメ滝の次に直瀑の5m滝が見えた。とても登れそうに無い滝だったので、結果的に高巻きで正解だったようだ。

うまく高巻きをこなして、5m直瀑の落ち口に降り立つ。

ゴルジュを抜け、渓相が穏やかになった。CO1,450m付近で二俣。私たちは藤原山を目指したいので左俣を選ぶ。
二俣には綺麗な台地があり、幕営するに良さそうだった。

振り返ると見える稜線が紅葉しており美しい。いよいよ標高が上がってきた。水流が細くなってきて源頭の雰囲気を感じさせられる。
目前に突如現れた3段30mの大滝。右岸ルンゼから巻き。
ルンゼも傾斜が急な上に足元が脆いので油断できない。慎重にトラバースを交えながら無事に高巻き成功。
続く滝は右から小さく巻き。まだまだ滝は続く。
いよいよ水流は途切れた。水が枯れてもなお、苔むした枯滝が現れる。最後までガンガン登らされる沢だ。
また悪そうな滝が現れた。パイセンが突破を試みるも岩が脆くて登攀不可。あーだこーだと議論した結果、Kさんが私をショルダーして左壁から登ろうとなった。
登ったところで、泥の急斜面なので、フェルトだと絶対滑るよー、と言ったら、「じゃあ、チェーンスパイクして肩に乗って!」とKさんが言い始めた。え?と思ったが、良いよ良いよ!と、私が躊躇してるのが不思議だという様子でKさんが答える。横からパイセンが「そんな趣味あったの?笑」と口を挟んでいる。どう考えてもやめた方が良い気がして、私の独断で却下。結局、ちょっと戻ったところの右岸ルンゼから問題なく巻くことが出来た。
後から、Kさんはようやく自分の言っていることのヤバさに気がついたようだ。
でも、意外とハンコ注射みたいで痛くなかったりして。今度は試してみるか?笑

沢筋は、まだ結構深さがあり、この先も大変そうなので、残りは左岸の尾根を詰めてゆくことにした。
足元は割と泥っぽいが藪は薄く、登りやすい。
振り返ると越後の山並みが見えた。

11:10、稜線に到着。稜線の藪は主に竹で形成されており、硬くて鋭利だ。怪我をしないように気をつけながら、藤原山まで藪漕ぎをしていく。
11:40、藤原山到着。見渡す限りの山々。赤く彩られた稜線がとても美しい。
素晴らしい景色。ゆっくり眺めていたいが、下山が長いので、一通り景色を楽しんだら、下り上り沢の下降に取り掛かる。

下り上り沢
目前に奥只見の絶景が広がる。国土地理院地図では表記の無いザレ場を右手に見ながら、下ってゆく。
そのうちに、沢地形と合流した。水は流れていないが、なかなか急峻で浮石注意。藪に埋もれた滝を左岸から巻き下ると、でかい滝に阻まれる。水が流れていないのでもはや崖って感じだけど。50mロープを使って懸垂。

滝の下から聞こえる水の音が次第に大きくなってきて、CO1,540m付近で最初の湧水に合流。
そしたらまた滝の落ち口が現れる。50mロープで3つの滝をまとめて懸垂。

下り上り沢は、なかなか急峻で大人しく下降させてくれない。ことあるごとに滝が現れ、クライムダウンか懸垂下降を強いられる。
もう何回目かも分からない懸垂下降。7m程の滝を50mロープと40mフローティングロープを連結させて下降。7m滝のすぐ先にも滝の落ち口が見えるので、可能だったらまとめて降りたいところだ。
Kさんが様子を見つつ先頭で下降していった。7m滝の下に無事着地し、続いて次の滝の落ち口からも懸垂して消えていったが、程なくして右岸の斜面に再びヘルメットが覗き、Kさんが登り返してきた。どうやら2つ目の滝の右岸で区切って、懸垂下降を2ピッチに分けるようだ。右岸の藪の中で「斜め懸垂!」というコールが聞こえてきた。
続いて私が下降に取り掛かる。7m滝は問題ないが、その後、右岸への移動が問題だ。斜め懸垂というより、ここから向かうともはやトラバースだ。足元は急斜面の泥で、灌木も無い。ATCに重力もかかっておらずロープを繰り出す作業も大変。まじか、かなり悪いなーと思いながら足を進めるが、トラバースに失敗し滑った拍子に、私は墜落した。数m自由落下した後、長く繰り出されたロープは振り子のように動き、みるみる私に2つ目の滝の岩壁が近づいてくる。その一瞬はかなりの恐怖を感じた。ズドン!と背中に岩壁の強い衝撃を受けたら、ようやくロープの振り子運動はおさまり、丁度滝の真ん中の高さで宙ぶらりんになった。意外なことに、両手は終始ロープを強く握っていた。自分で回転したのか記憶はないが、結果的に背中のザックで衝撃を吸収できたのは幸いだった。
上から、Kさんの「大丈夫?!」という声が聞こえきた。「とりあえず大丈夫ーー!」と返事をする。
左壁のスタンスに取り敢えず乗っかり、しばし悩む。Kさんにロープのフィックスをお願いして、ここからKさんのいる位置まで登り返すことにした。
ATCを解除して、バックアップとして使っていたスリングをずらしながら登ろうとするが、クレイムハイストがなかなかガッチリで一向に捗らないので、マイクロトラクションに変更。(今度からバックアップはオートブロックにします。。。)
上から、「落ち着いて!ゆっくりね!!」とKさんの声が飛んでくる。確かに、ここで慌てて失敗するのはヤバい。
左壁は意外と登りやすく、無事にKさんの元までたどり着いた。
続いてパイセンが懸垂下降を開始。パイセンも心配だな、トラバースは絶対にフィックスが良いなと思っていたので、タイミングを見て声をかけようと思っていたが、7m滝を降りた段階で、丁度パイセンから「フィックスしてある?」と声が飛んできたのでスムーズにやり取りを交わすことが出来た。
パイセンも2回ほど滑ってロープにテンションかけていたが、無事に全員集合。
先行したKさんは、Kさんなりに反省しているようだが、今回は私自身の判断が甘かったのが一番の反省点だと思う。トラバースがかなり悪いことには気付いていた。その時点でKさんにロープを張ってフィックスしてもらい、懸垂下降から切り替えれば良かったのだ。しかし、実際にはそこまで頭が回らなかった。もっと想像力を働かせれば良かった。6〜7mは墜落しただろうか。
沢登りは本当に危険なんだと実感した。油断して足を滑らせたら、こんな風に落ちていくんだって、身をもって経験した。
その後も滝は多く、下降は捗らない。とにかくヌメりが強く、気を遣う。
滝にぶつかった衝撃で、尾骶骨がけっこう痛い・・・。
そのうちに、右岸に鹿の足跡を確認した。その痕跡を眺めて、少しホッとした。
下り上り沢はようやく穏やかな渓相になってくれた。
こちらも沖ノ巻倉沢同様、沢の屈曲が激しく、見通しが悪い。
西沢出合はまだかまだかと心待ちにするが、なかなか現れてくれない。
16:40、ようやく、ついに、西沢と合流した。日没に間に合って良かった。あとは林道を引き返すだけだ!

手早くパッキングを済ませ、16:50出発。行く時は、「こんな藪っぽい林道で日が暮れたら嫌だね〜。」なんて話していたが、なんだか帰りはやけに歩きやすく感じる。沢の遡下降が大変だったから、身体が慣れてしまったのだろうか。
17:30を過ぎると、とうとう日が暮れてしまった。
藪林道は日没を迎えてもやっぱり歩きやすく感じて、順調に進む。
18:00、西沢出合到着。
星空を楽しみながら中ノ岐林道を歩き、19:50雨池橋に無事帰着。
感想
最近、記録の僅かな沢、未知の沢へ入る楽しさを知りつつある。
既存の情報に翻弄されない沢は、気楽だ。
情報があればあるほど、期待や緊張感、迷いとか、色々な感情が頭を埋め尽くす。写真を眺めて、美渓かどうかを気にしてしまう。写真がいまいちだったら、たとえ元々気になっていたとしても「イマイチっぽいからやめるかー」となってしまったりする。個々の沢に失礼かもしれないが、結局私は美渓好きなので、どうしても情報を元に沢の取捨選択をしてしまう。
今回の「沖ノ巻倉沢」は40年前の遡行記録が1つあるものの、大半は謎に包まれたままだ。グレードも、沢の評価も、まるで確立されていない。
Kさんがどこかから見つけ出してきた謎の沢。
「気になるから行ってみるか!」と、単純な好奇心だけが原動力だった。
もし、比べるならば、沖ノ巻倉沢以上に美渓の沢はきっと無数にあるだろう。
それでも、私にとっては印象深く、素晴らしい渓だった。
情報が無いからこそ、ただただ「沖ノ巻倉沢」とだけ向き合い、「沖ノ巻倉沢」の魅力を噛み締めることが出来た。
こんなにも「自由」を感じた沢登りは始めてだ。
何にも囚われず、行きたい沢に、ちゃんと行けたことが嬉しかった。
すごく、楽しかった。
自分の、純粋な興味をもっと大切にしたい。
好きな所、気になる所にもっともっと、行きたい。
今回は、新たな気付きのあった山行でした。
Kさん、パイセンに感謝!
