2024/5/22(晴れ) 駐車地点(7:45)-大白沢出合(8:05)-支流出合(11:50)-稜線(13:30)-名無沢出合(15:35)
2024/5/23(晴れ) C1(6:00)-Co500m二俣(7:20)-奥の二俣(7:40)-稜線(10:20)-大白沢山(10:45)-五枚沢(11:05)-芳沢出合(12:35)-赤崩平(13:00)-赤崩峠(14:15)-真奈川出合(15:45)-林道(18:05)-駐車地点(19:05)
メンバー : 2人(Waka , Kさん )
装備 : ラバー、 ロープ8mm×30m、フローティング6.5mm×25m
5月下旬、会越周遊の旅へ。
まだ谷筋に雪渓が詰まっている可能性はあるが、興味のあるルートだったので、なんとかなるさ!精神で突っ込んでみることにした。
結果的にほぼ計画通りの周回ができ、5月の沢登りにしてはガッツリ満足感溢れる山行となった。
1日目
蒲生集落の奥に伸びる林道沿いの空きスペースに駐車し、登山開始。
駐車スペースから藪を漕ぎ蒲生川へ下降し、大白沢へ入る。
水量は極めて少なく、癒しの渓相。
まもなく現れるグリーンタフのゴルジュは素晴らしい造形美。いよいよ会越に来たのだと実感が湧く。
水温は低く水に浸かりたくないので、へつって進む。真夏だったら泳いで楽しいが、今は無理!
ゴルジュを超えて河原が続くようになったので、竿を出す。のんびり楽しいですな。
大白沢は大きな滝はないものの渓相が美しく、歩いているだけで楽しい。
側壁のスラブ、グリーンタフの白い沢床、青い空、新緑。取り巻く環境全てが美しい。
小金花山方面に続く金ヶ沢の出合を見送り、さらに奥へ。
やがて標高点881mに続く顕著な支流に出合う。この支流を詰めて会越国境稜線に出る予定だ。支流には雪渓が詰まっているが、ほとんど途切れることなく登れそうだったので予定通り支流を進むことにした。もし行き詰まったら大白沢に戻って幕営することにした。
次第に水流の音が遠のき、春の雪渓歩きが始まる。
沢は二俣に分かれる。左俣に大きな滝が露出しているのが見えたので、雪が続いていそうな右俣を進んだ。沢筋は細く、深くなってゆき、ついに雪渓が途切れてしまった。
沢床まで高さがあり飛び降りるには危険。ちょうど滝の落ち口で、うっかりミスは許されない。
Kさんが右岸にヒョロッと生える灌木を掴みながら垂直の泥岩壁をそろりそろりと降りてゆく。
「腕力勝負だけど、ここから行けるよー!」とお声がかかった。
えーまじか。覚悟を決めてクライムダウンに取り掛かる。足が滑って宙ぶらりんになったら嫌だなぁと思いながらじわじわと…。チェーンスパイクを履いているため、意外と足元のフリクションが良くて助かった。無事、沢床に着地した。
沢床に降り立ち、遡行を再開するとすぐに5m程の滝に阻まれる。なんとか登れそうにみえるが、直登すると完全にシャワークライミングとなるため右岸より巻きを試みる。
側壁の弱点から泥壁を登ると、上部には割と藪が薄いブナ林が広がっていた。
もし、滝を巻いて沢床に降りたとしても、また同じような雪渓や滝が現れそうだ。時刻は12:00をまわっていることだし、夕方までに水場のある幕営地へ到着するためにも、そのまま尾根を登ってしまう方が早そうだ。Kさんと相談し、このまま稜線まで藪漕ぎ尾根直登プランに変更。
会越の藪漕ぎは灼熱・毛虫だらけのイメージだが、今日は気温が低く木陰が心地よい。大して汗をかくことなく順調に高度を上げる。足元にはヒメサユリ、周囲にはウラジロヨウラクがちらほら開花しており季節の移ろいを感じさせられる。
ブナ林を越え、灌木帯へ乗り上げて振り返れば、素晴らしい展望が待っていた。
低山ながらに、山肌を豪雪で抉られた山容は峻険で、容易に人を寄せ付けない雰囲気を放っている。まさに「山奥」だ。
藪を漕ぎ、いよいよ会越国境稜線に立つ。北側を覗くと、峻険な室谷流域のスラブたちや、下田・川内山塊の山々が一望できた。
室谷川の源頭部分も望むことができる。今回は、できれば室谷川に降り立ち、遡行し中の又山に登頂するのが目標だ。よく目を凝らしてみると、谷筋にガッツリ詰まる雪渓と、途中に露出している滝が見える。登れそうなルート、エスケープルートを考えるが、眺めた範囲では、パッと良案が思いつかない。詰めは厳しいかもしれない。
しかし結局は行ってみなければ分からない。
「とりあえず室谷川本流にくだってみる?明日のことは今日の夜考えよう。」
Kさんは賛成してくれた。
会越の藪が想定よりも薄かったので、もしもの時は、下降した尾根を藪漕ぎして登り返せば良い。なんとかなるさの楽観的な考えだ。
当初は標高点881mの北東に伸びる沢を下降する予定だったが、沢床が全く見通せず状況が分からない。Kさんが、「見えている北西の沢くだる?」と提案してくれた。下流に雪渓が見えているが、どうにも険しい気がして「尾根が良いかな」と答えた。
意向は確定し、室谷川本流へ続く尾根をおりはじめる。
時折ナイフリッジになっているが、藪をつかみながらくだってゆく。途中岩場をクライムダウンするときに、強烈な悪臭。見れば左手に茶色いものが…。思わず「ぎゃあ!」と悲鳴を上げる。先行したKさんがびっくりして振り返る。
「どうした?!」
「うんこ潰した!」
「なーんだ。」
私が落ちたと思って一瞬焦ったらしい。
こんな尾根の途中で、水場などある訳ない。手も洗えず、手が臭いから水や食べ物を口に入れる気にもならず。臭う左手を極力顔に近づけないように藪を漕ぐほか無い…。
飼っているニワトリやインコの事を私が「ウンコマン」と呼んでいたからバチが当たったのか。ついに私が「ウンコマン」になってしまった。
悔しいのでKさんにどうしても臭いを嗅がせたい。
「夫たるもの、妻の苦しみを理解するべきだよ。ウンコの臭い嗅いで。」
「……。」
Kさんは全くの知らんぷりでさっさと歩いてしまう。酷い夫であった。
長時間の藪漕ぎで少し疲れてきたころ、尾根が岩尾根となった。開けていて展望が良い。こういうのが関東周辺にあったら人気出そうだけれど。
ようやく室谷川の沢床が近づいてきた。待ちきれないKさんの提案で、尾根から沢へ下降、一直線に本流を目指す。沢はスラブ滝となったので、端っこの灌木を使いながらスルスル下降し、いよいよ室谷川へ着地。
着地してすぐに、臭い左手をバシャバシャ洗浄。ついに悪臭から解放された。あーすっきり。
私の様子を眺めていたKさんがニヤニヤしている。
「臭い嗅いであげようと思っていたのに、洗っちゃったの、残念だなぁ。」
絶対に嗅ぐ気なんてなかったでしょ。
時刻は15:30。これから未知の上流へ行って幕営地を探すのは不安なので、少し下流に歩いて以前泊まったことのある名無沢出合に幕営することにした。
5月下旬の室谷川、時折雪渓が詰まっているが、苦になるほどではない。グリーンタフのゴルジュはやはり美しくて感動した。またここへ訪れることができたのが嬉しい。
途中、下降していた尾根の末端が出合う。想定よりも崖で、もし尾根を下降していたら難儀しそうだった。Kさんたら、もしかして分かっていたのかな。
「尾根の末端が切れているの分かっていて途中から沢おりたんだね。」
「当然でしょ!」と得意げなKさんだった。
懐かしの名無沢出合い到着。ここで、本日の行動を終えた。
食事をとっていると、上流から今まで見たことのないような大きなカモシカがのそのそやってきた。下流へ行きたいけれど、私たちがいるので通れないようだ。
あまりに大型で、逆に襲われても嫌なので気づかぬふりをしていたら「キャン!」と鳴いて、猪突猛進のごとく水飛沫を上げながら上流へと逃げていった。
体は白っぽいが、黒いよだれかけと、ロング靴下を履いているような模様が可愛いカモシカだった。あんな巨体なのに随分ビビりだ。
じっとりと、カモシカの逃げた上流を見つめているKさん。
「ウンコしたのあいつじゃない?」
確かに…。潰したのは茶色い下痢うんちだったが、カモシカだって下痢くらいするよなぁ。
食事をとり、早々にシュラフに潜る。
Kさんと明日どうするか話し合う。結果、とりあえず上流に行くことにした。会越国境稜線から眺めた室谷川源流部は、もはや何だか良く分からなかった。全ては明日、現地判断するしかない。
2日目
翌朝、6:00出発。美しき室谷川を遡行する。
ヘツリは容易で、ドボンすることなく快適に進んで行ける。
雪渓も数多く残る。
進んでゆくと、目前にいかつい雪渓が。なんとなく奥利根の雪渓っぽい気がして「奥利根雪渓」と命名した。
この雪渓が突破出来なければ、いよいよ引き返さなくてはいけない。
恐る恐る近づいてみたら、運よく登れる岩壁と繋がっており、乗ることができた。
奥利根雪渓を越えると、まもなく二俣。右俣は滝を抱えた深いゴルジュ、左俣は明るく、室谷の奥壁が光ってみえた。
右俣のゴルジュは、中がどうなっているのか気になったが、逃げ場が少なく滝が多そうで、もう少し雪がとけた時期に行ったほうが楽しそうだ。今回は左俣を進むことにした。
さらに二俣に分岐したので奥壁の見える左へ進む。
この時点で、割と上流まで遡行できていたので、なんとなーく、このまま室谷川を詰められそうな予感がしてきた。
そして、屏風のように聳える室谷川奥壁が目前に迫る。
スラブが取り囲む様は圧巻で、まるで別世界に迷い込んだかのよう。
2人で大はしゃぎ、「来てよかったね!今のところ。」と笑い合う。
Kさんとどこを登るか話し合うが、こうして眺めると、どこもぶっ立っているように見える。純粋に興味があるのは左側に見える三角ピークにつながるスラブだが、最も急にみえたので、とりあえず奥へ進んでみることにした。
と、雪渓が途切れ、目前に20mはありそうな大滝が現れる。ツルツルで弱点がなく登れないので、右岸から高巻く。雪渓が乗っている分、灌木帯までの距離が短く容易に草付きから灌木帯まで辿り着いた。
高巻きしつつ沢の様子を伺うも、側壁が高く、雪渓が詰まっている。ここから下降したとて、またスラブに取り付く際に難儀しそうだったので、高巻きしたままトラバースしてスラブを目指すことにした。
灌木を利用しつつ、高度を上げてゆく。次第に傾斜が増してゆく。落ちたらどこまでも転がり落ちてゆくので慎重に。
途中のテラスで小休止。振り返れば、室谷川流域の険しくも美しい展望が広がる。
先行したKさんが立ち止まっていて、上を見上げている。追いついた私に「Wakaがロープ欲しいなら出すけど。」と聞いてきた。
見上げれば、明らかに立っているスラブ。割と持つところはありそうで、いけそう。でも落ちたら100m転落だ。去年小倉谷で、ロープを出してくれたコミネムを思い出す。コミネムだったらここは絶対ロープを出すだろう。
「いけそうだけど、もし落ちたら死ぬからロープ要るかな。」
Kさんにおんぶに抱っこも悪いので、自分でリードして登ることにした。
スラブはスタンス豊富かと思いきや、意外とスタンスが小さく、斜度があるので緊張した。ようやく頼りない灌木に支点を取る。絶対落ちたくないなぁ。と思いながら、20m程登ったところで早めにピッチをきった。
ビレイ中「意外と悪いなぁ。」と下からモゾモゾ声が飛んでくる。
登りきったKさんが「これはロープ出してよかったね!」と苦笑いしていた。
正直ロープ出したところで気休めにしかならないけれど、これをフリーソロはちょっと嫌だ。我ながらナイス判断。コミネムのおかげだ。
Kさんが、2ピッチ目もWakaリードしていいよと言ってくれたが、時短のためにKさんにそのままロープを伸ばしてもらう。
直上して、左側にトラバースすると、斜度が緩み落ち着けるテラスがあった。
ホット一息。楽しいスラブ登りのお時間なのに、今回はどうにも傾斜が急すぎて純粋に楽しめない。
息の詰まるような時間が続く中で、ほんの一息つけるテラスから眺める展望はまさに癒し。
「Wakaここからもロープ出す?」
「見た感じ斜度ないから要らないよ。」
早速フリーで登ると、上部が意外と急で緊張する。あれ、思っていたのと違う。
スラブは見た目が急なのか緩いのかよく分からんから判断が難しい。悪い部分を突破すれば、あとはいよいよ簡単なスラブ登り。油断せず慎重によじ登る。
そしていよいよスラブが終わり、藪を漕いだら稜線へ到着した。
無事に室谷川本流から脱出できた。
時刻は11:00前、そうのんびりしていられず、下山のことを考えなくてはいけない。大白沢を下るのが最短だが、遡行した沢を引き返すのはあまり好みではない。できれば周回をしたい。
Kさんに伝えたら「いいよ。」と快諾してくれた。
下山プランは五枚沢を下降し、赤崩峠を乗っ越し、真名川を下降する。脱渓の目標時間は19:00で、脱渓地点から駐車場までは道路なので暗くても歩けるだろう、ということでまとまった。
まずは五枚沢を目指す。五枚沢は国土地理院地図では表記がないのでややこしいが、中ノ又山の南に伸びる赤崩沢の一本東の沢である。
五枚沢に下降するべく、大白沢山(標高点942m)を稜線通しに目指す。
局所的に藪が深い場所もあったが、全体的に岩尾根で楽しく快適。意外と早く大白沢山に到着した。
大白沢山からは、灌木を使いながら一気に五枚沢まで下降する。到着した沢床は雪渓で覆われていた。
雪渓がぎっちり詰まっているところは快適で、もはや高速道路である。
滝の落ち口でポッカリ口を開けている雪渓は怖いので慎重に。それでもまだ時期が早いので大半の雪渓が安定している感じはあった。
大滝を2度高巻くと、いよいよ芳沢の出合が近づいてくる。雪渓がなくなり穏やかな渓相になった。
この付近で、過去に幕営している。Kさんと沢で喧嘩して、せっかくの山なのに雰囲気の悪い夜を過ごしたっけな。
ここまできたら下山できる算段がついてきた。あとは赤崩峠を乗っ越して真名川を下るのみだ。たった1泊2日だというのにやけに濃密な時間を過ごしている気がする。
芳沢に合流して歩いていると、釣り師3名に合った。どうやら日帰りで入渓しているとのこと。日帰りにしてはこんな奥まで。足が早いなぁ。
短く会話して別れる。なんだか、久々に人に会って安心した。
やがて赤崩峠へと向かうコイドノ沢が出合う。さて、ここから最後の登り返しだ。
赤崩峠には、はるか昔、只見から新潟の三条まで抜ける「八十里越の裏街道」が通っていたそうな。痕跡を探したかったが、ほぼ自然にかえっているのか見つけることはできず、結局赤崩峠まで藪漕ぎをして這い上がる。
赤崩峠近くの尾根で、やけに藪が薄く歩きやすい部分があった。もしかしたらここが裏八十里越だったかもしれない。
赤崩峠からは笠ノ沢を下降する。出だしは快適だったが、意外と滝があり、慎重なクライムダウン、1度懸垂下降を行った。こんな滝に囲まれた沢の真っ只中でもカモシカと遭遇した。カモシカは下流からやってきて、わたしたちと鉢合わせた途端、すごい勢いで下流へ引き返していった。側壁は高く、大きい滝もあるというのに、カモシカはどうやって移動しているのだろう。
道中、まさかの坑道があったのには驚いた。
15:30、真名川出合着。
休憩をして、いよいよラストスパート。河原は足早に、ゴルジュやナメは渓相を楽しみながらくだる。
やがて堰堤が現れたので左岸から高巻く。と、ここでまさかの林道合流。まだまだ沢を歩くつもりだったが予期せず早めに脱渓することができた。
道路を歩き19:00駐車地点着。
無事下山!
歩行距離30km越え、大充実の2日間の山旅でした。