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2024年3月31日(日) 霧のち晴れ
浅貝(6:40) – 旧三国スキー場 – 上越国境稜線 (10:00) – 大黒山 (14:30) – CO1520 (16:10) / 行動9h30m
2024年4月1日(月) 晴れ
Co1520 (6:20) – (7:45) 清津川 (8:40) – Co1648 (11:50) – ナラズ山 (14:05) – CO1905 (14:40) / 行動8h20m
2024年4月2日(火) 上部は強風 高曇り
CO1905 (6:40) – 赤倉山 (7:05) – 苗場山 (10:50) – 神楽ヶ峰 (13:00) – みつまたロープウェイトップ (14:40) / 行動8h
メンバー : 2人(Waka , Kさん )
装備 : アイゼン(アルミ10本爪)、テント、山スキー、ウィペット
山行記録
2日目
核心と思われる部分からスタート。この先、地形図上では等高線が密集している。雪面のコンディションが不安なので、出発は日が昇った6:20とした。
昨日と同様、濃霧に包まれることを心配したが、今日は谷底まですっきりと見通しが良く安心した。
緊張のドロップイン!案の定カチカチで、斜滑降でこなしてゆく。傾斜は手に負える具合だったので、一安心。
出発から10分後、標高100m落としたところで不穏な予感。
雪がない。
なんとか行けるかも。まじまじとラインを観察するが、スッパリ雪のラインは途絶えている。沢床までの標高差は残り200m。
滑降は諦め、スキー板を担ぎ、足元はアイゼンを装着した。
Kさんが「昨日上で泊まってよかったね。」と言った。いや本当に。降りていたらお座りビバークになっていたかもしれない。
左にある沢筋上部にある薄い雪がざざっと崩れて少し流れていった。朝早いというのに全層雪崩の予兆が出ている。
3泊4日分の荷物+スキー板は重い。ふらつきながらもヨイショと頑張って担いでクライムダウン開始。
雪の流れた後の斜面は泥々で滑りやすい。アイゼンをつけていると安心感がある。
雪の積もった箇所は踏み抜きが激しい。あまり深く踏み抜くと担いだ板がつっかえて引っくり返りそうになるので、傾斜が緩い箇所でもバックステップで下降する。この方がひどい踏み抜きにも合わず、ちょっとマシになる。
と、次の瞬間、隣の沢筋をすごい勢いで雪が滑り落ちていった。時速100キロ以上あるんじゃないかというスピードで、巻き込まれたら一瞬で全身骨折・穴だらけになりそうだ。上部で見た、前兆のあった箇所が全層で崩れたのだろう。恐ろしい光景だった。
地形選択を慎重に、さらに下降を続ける。
川の音が聞こえ、やがて河原が見えてきた。急斜面をひたすらバックステップで下り、清津川に着地。周囲は予想通り河原で、渡渉は問題なさそうだったので安心した。
準備を整えて渡渉の開始。私とKさん、それぞれ好みの場所から横断を試みる。裸足で浸かると飛び上がる程冷たい。長時間浸かっていられないので、途中で岩に上陸して休憩しながらなんとか渡りきった。
ここで飲み水も補給しておく。「清津川は温泉がわいているから水は鉄の味がする」という情報を以前ネットで目撃したが、心配ご無用、支流から汲んだ沢水はすっきり美味しかった。雪を溶かして作った水も全て入れ替えた。
休憩ののち、いよいよ再出発。これから登り返す尾根を見上げる。険しくて、雪つきが悪い。
「スキー板を脱ぐと絶対踏み抜くよね。行けるとこまではスキー板履いてゴリ押したいね〜。」とKさん。とりあえず登れる場所から登り始めるが、尾根上に乗り上げようとしたらいよいよ藪がうるさくなった。
Kさんが「尾根横をトラバースしてみる?」と尋ねてきた。基本的に尾根上より側面の方が起伏がなくて日当たりが悪いので、雪つきが良いことが多いのは確か、だが…。
今回に関しては尾根の側面もそれなりにぶっ立っているし、落ちたら沢だ。見た感じ倒木やら露岩やらごちゃついている。変に行き詰まったら嫌なので、尾根上辿った方が良いんじゃない?と返した。
「オッケー!」ということで、尾根上の藪に突っ込んでいくKさん。
なるべく藪を避けるが、無理な時は藪に突っ込み、逃げ場のない急斜面に対し怒涛のキックターンを繰り返す。じわじわ高度を上げてゆく。
途中でクロモジの枝が私の耳奥に入り込み、あまりの激痛に悲鳴を上げた。思わず涙が出てきて、その場にへたり込む…。昔、手首を骨折した時に折れた骨を捻って位置を無理やり戻した時より痛かった。
藪から逃れたらきつい痛みから解放された。ズキズキと耳の奥が痛む。あくび、くしゃみをすると、違和感があるが、とりあえず難聴になっていないようなので良かった。藪がピンポイントで刺さるとこんなにも痛いのか。今後は気をつけようと思った。
その後も雪を繋ぎ、時には落ち葉の上を進む。文字通り「ゴリ押し」だ。
いよいよ雪がまるでなくなってしまったので、シートラーゲンに切り替えた。意外と明瞭な獣道があり驚いた。清津川両岸に伸びる無数の尾根はどれも険しく、ここの尾根も良くはないが比較的「登やすい方かな?」というところだ。きっと動物たちもそれを分かっているのかもしれない。
獣道を活用しつつ高度を上げると、やがて尾根が広がりブナの森に飛び出した。雪がしっかりついていて、ようやくスキー向きの地形が現れてくれた。
谷底から標高差約300m。本行程の核心部を1つ突破した。
あまりに濃密な時間が終わったので今日は満足だ。もうどこに泊まっても良いくらいだ。Kさんとおしゃべりしながらのんびり登る。
この辺りは立派なブナの木が多い。見上げれば無数の熊棚があった。大きな熊棚や、ヒョロっと細い若木にも小さな熊棚。親熊も、子熊もそれぞれ熊棚を作りながら木の実を食べていたのかな、と想像できた。
もしかしたらここを歩いた人間は私たちが初めてかもしれない。人の寄り付かない山奥で、ツキノワグマたちは生活しているのだ。滅多にお目にかかれない野生動物の営みを垣間見ることができて良かった。これもまた登山の楽しみの1つ。このルートを辿って良かった。
大黒山からくだり、長い長い登り返しを経て、いよいよ稜線に復帰した。
なんと初日に見かけたトレースと再合流。トレースの主はずっと稜線を縦走していたようだ。いやはや、ほんと何者だろうか。
あれほど遠かった佐武流山が今は後ろに。またいつかの機会に訪れよう。
稜線は風が強く、少し寒い。
ナラズ山からお楽しみの滑降…と行きたかったが、まだアップダウンが続くのでシートラーゲンで進むことにした。今回はなかなかスキーが活躍しない。スノーシューで十分と言えばそうだったかも…。前方に台形の苗場山が見えた。まだまだ遠く離れている。
雪が硬いので急斜面に備えてアイゼン装着。景色は素晴らしいが、踏み抜きがシツコイ。
一度太ももまで踏み抜いた時に、背中の板が引っかかり前転→プチ滑り。アイゼンで太ももあたりを引っ掛けたようで、今年買ったばかりのハードシェルパンツに穴が…。なんか太ももがジンジン痛むなぁと思ってめくってみたら、悲しきかなWakaにも穴が…。今山行はなかなか痛みを伴う出来事ばかりだ。
時刻は16:00前、赤倉山手前の平らな尾根で幕営とした。
3日目
朝、6:40出発。
カチカチの急登なので、引き続きシートラーゲンで登る。
雪は締まり、つぼ足でも踏み抜くことなく歩きやすい。赤倉山から尾根の方向がグッと変わる。北西方面へ標高差100mくだる。スキー滑降でも良かったが、すぐに登り返しで切り替えが面倒なので板は担いだまま。スキーを持ってきた意味があまり無い。(笑)
ここまでくると、旅の終わりがいよいよ近づいてきた気がする。苗場山まで後少しだ。
歩いていると、斜度が緩んできたのでスキーに履き替えた。雪が硬くてもなんとかなる。ちょっと藪がうるさかったが、昨日に比べたらはるかにマシだ。
そしていよいよ苗場山の山頂台地へ。
果てしなく広い山頂台地を、自由に進む。積雪期の苗場山は今回で2度目だが、佐武流山方面からアクセスしたのは初めてだ。広大な湿原、「いつか隅から全て歩きたいな。」とずっと思っていた。今回ついに実現して感慨深い。豪雪で木々が埋まり、遠くの山々が見渡せる。絶景だ。
木々の背が低くなってくると、次第に強風が吹き付けてくるようになる。今日も高温予報だが、足元は予想に反してカチカチで硬いままだ。
遠くに、豆粒のように見えている苗場山頂ヒュッテを目指して進む。歩いてもなかなか近づかないヒュッテ。苗場山の広大な山頂部を身をもって実感する…。
10:50苗場山到着!!無雪期は樹林に囲まれ眺望皆無の山頂も、今は積雪のおかげで素晴らしい展望が広がっている。
風が強い。とりあえず記念撮影をして、その後に滑降予定の北面を偵察。そこそこ斜度があり、ザラメ雪だったらサイコーだろうが今のカチカチコンディションではちょっと危なそう。
計画では北面を滑降し、神楽ヶ峰へ登り返す予定だったが、大人しく夏道のある尾根を降るのが最も安心かもしれない。今回の行程で北面の滑降を楽しみにしていただけに、残念だ。
山頂ヒュッテの小屋裏で風を凌ぎながら小休止。スキー板を担ぎ、アイゼンを装着。名残惜しいが下山を開始する。次に来るのはきっと雪溶けの後だ。
ここからは、無雪期なら何度も歩いた知っているルート。問題はないはず、と思ったのは少しの間。
苗場山頂直下の雲尾坂はご立派な雪壁となっていた。高所が苦手&重い荷物&風に煽られる状態ではもうビビるしかない。(笑) ピッケル要らんやろ。と家に置いてきたのを少し後悔した。ウィペットで頑張る。ウィペットって、重いし、長いし、疲れるんだよな〜。突風が吹き付ける中、何度も耐風姿勢でやり過ごしながらじわじわ進む。
落ちたら崖!なところを慎重にクライムダウン…。精神を消耗するセクションを何度か突破し、無事に安全地帯へ。
神楽ヶ峰と苗場山のコルは「お花畑」と呼ばれている。雪の下に花々が眠っていると思うと、今から雪解けが待ち遠しくなった。
相変わらずの強風、煽られる。本当に北面へ滑り込まなくて良かった。滑ったら登り返しもこの強風に晒され続けるということだ。それはきつすぎる。(笑)
神楽ヶ峰まで登り返し、ようやっと神楽スキー場が見えてきた。いよいよ山行の終わりが近い。
シールオフし、最後の滑降。ドロップイン!!雪面はカリカリアイスバーン。あまり楽しくない。
ゲレンデトップに到着したらスキー場を快適滑降。この3日間で最も滑りやすく楽しい時間となった!
14:40、みつまたロープウェイトップに到着。3日間の短くも濃密な山行は無事に幕を閉じた。
参考記録
私たちをずっと導いてくれたトレースの主はYAMAPのAけいZさんのパーティーだったようだ。
けいさんは私より2つ年上の新潟岳人である。あの、1度も休憩した痕跡のないトレース、ちょっとやそっとの急斜面もスノーシューで駆け下る、けいさんだと分かって、合点がいった。
おすすめ装備
今回活躍した装備は、スキーヤー御用達でもある アルミアイゼン。私はPetzl(ぺツル)のレオパードを持っている。クロモリと比べて歯が柔らかく丸まりやすいものの、非常に軽量だ。岩や氷が多いシーンでは消耗が激しそうなのであまり適さないが、雪なら問題ない。山行中少ししか使わないけど、でも雪面にガッツリ効かせたいという時に活躍する。
私の持っているお手軽系アイゼン(チェーンスパイク)↓
アルミアイゼンは約385g、約25,000円。
6本爪軽アイゼンは約490g、約9,000円。
軽量チェーンスパイクは約215g、約6,600円。
6本爪軽アイゼンは、歯が短いし、前爪が無い。雪のトラバースに弱いし…。結局怖くて、ツボ足で歩いても同じじゃね?って思うくらい効いてる感じがよく分からない。チェーンスパイクで行けるところはチェーンスパイクを利用してしまうし、やばいところは10本爪〜アイゼンを使ってしまうと、軽アイゼンは滅多に使う機会がなく、8年前に購入して、使用したのは1度きり。
アルミアイゼンは価格は高いが、10本爪なので安心感は充分。軽くて扱いやすいし、ベルトタイプならコバの付いてないハイキングシューズでも装着できる。もっと普及しても良いのに、と思う。
Amazonでも5,000円くらいの(怪しい?笑)アルミアイゼンが販売しているので、今後、色々試していけたらなーと思う。