妊娠中の登山は「控えたほうがいい」とよく言われています。でも、家にずっといるからといって妊娠や出産のリスクがなくなるわけではないとも思っています。
私にとって、登山は生きがいだったので、家にこもるとやることがなくて、暇を持て余して暴飲暴食したり、パソコンを長時間して目が疲れて眠れなくなったり…。不健康な生活になってしまいました。
気分転換に水族館や温泉にも行きましたが、お金がかかるし、つい美味しいものを食べて体重が増えてしまいます(笑)。
色々試した結果、私にとって一番良かったのは「登山」でした。山へ行けば体も動かせるし、楽しいし、心もスッキリしました。
妊娠中に山歩きを楽しめたのは、本当に良いリフレッシュになったと思います。
この記事では、妊娠中にストレス発散のために出かけた山歩きの記録をまとめています。「これはやりすぎたな」と感じたことや「これは良かった」と思ったことを振り返る、私なりの備忘録です。
今、振り返ってみて一番大事なのは「本能に従うこと」だと思いました。体調が悪い時は無理せず休むことです。お腹が張ったりしていて、体調が悪いのに「どうしても行きたい!」という気持ちで山へ登ってしまうと、状態が悪化してしまうと思います。
私について
プロフィール
• 職業:登山ガイド(自営業)
• 今年の仕事計画:月10日ガイド、それ以外は在宅ワークまたは休み
• 妊娠中の仕事状況:妊娠6ヶ月目(20週目)から完全休業
• 移動手段:主に車
私がプロフィールを紹介したのは、妊娠中にどれくらい登山できるかは、人それぞれ生活スタイルによって大きく変わると思ったからです。特に、仕事との兼ね合いが一番大事だと感じます。
私の場合は、今年は仕事が比較的控えめで、ガイドの山行は平均して月10日程度(それ以外は休みや事務作業)でした。そのおかげで、つわりの時期も仕事に穴をあけずに乗り切ることができました。妊娠6ヶ月目(20週頃)からは完全休業に入り、疲れている日は10時間以上眠るなど、ストレスなく自由に過ごせました。
会社勤めで産休を取る場合、一般的には予定日の6週間前(34週頃)から休むことが多いようです。元気な人は臨月まで働くこともあるそうですが、周りの友人からは「妊娠中の立ち仕事が大変」「通勤電車がしんどい」といった話を聞きました。私も妊娠中に2度、都心へ向かいましたが、電車は本当にきつかったです。マタニティーマークをつけていても譲ってもらえず、こちらも遠慮してアピールしにくく、たった20分の乗車でもかなり疲れました。人口密度の高い電車は、登山よりも大変で疲れる環境でした。
休日にどれくらい登山を楽しめるかは、日常生活のストレスや疲労をどれだけ軽くできるかが大きく影響すると思います。自分の生活を無理なくこなし、心身ともに余裕があれば、山を安全に楽しめると感じています。
登山におけるリスク
産婦人科の先生に、以下のリスクを指摘されました。
①お腹が張るリスク
②転倒のリスク
③いざという時に病院へすぐにかかれないリスク
①②はスポーツ全般に言えることで、③は登山ならではのリスクです。
無理をすることで胎児が流産してしまう危険性があります。
お腹が張るリスク・転倒のリスク
より負荷の高い「妊娠中のマラソン」に関する記事も参考にしつつ、以下のルールを守りながら登山を行いました。
①こまめに水分補給をする
②トイレを我慢しない
③息切れしないペースを保つ
④転倒のリスクが低い安全なコースを選ぶ
⑤疲れたら無理せず休む(登山自体を控える場合も含む)
①②に関しては山中での心掛けですが、③〜⑤は計画の段階で考えていく必要があります。
対策1:登山レベルを考える
まず考えたのは、「行ける山を考える」ことです。
自分の体力・経験・体調を基準にして
③息切れしないペースを保つ
④転倒のリスクが低い安全なコースを選ぶ
をクリアできる山を選びました。
私の登山スキル・活動状況
• 重い荷物を担ぐのが得意
• コースタイム0.7~0.8倍のペースで歩行可能
• 沢登りや山スキーがメインで、テント泊縦走も好き
• 年間入山日数:150~200日(仕事含む)
以下は、私が妊娠中に登れる・登れないと判断した登山内容の例です。転倒や流産のリスクを避けるため、挑戦的な登山はすべて諦めています。↓
妊娠周期 | 該当月 | 諦めたもの | 行けるもの |
---|---|---|---|
妊娠初期 (2ヶ月目〜4ヶ月目) | 6月〜8月 | 沢登り(4級以上) フリークライミング全般 | 小屋泊の一般登山道 沢登り(3級程度) |
妊娠中期 (5ヶ月目〜6ヶ月目) | 9月〜10月 | ボルダリング全般 波線ルート | 里山ハイキング 小屋泊の一般登山道 沢登り(2級程度) |
妊娠中期 (7ヶ月目〜8ヶ月目) | 11月〜12月 | 沢登り全般 一般登山 | 里山ハイキング |
妊娠後期 (9ヶ月目) | 1月 | 里山ハイキング (標高差450m程度) スキー | 里山ハイキング (標高差100m程度) |
臨月 | 2月 | 全て | なし |
※上記は私個人の経験に基づく基準です。また、緊急時に病院へかかれないリスクは考慮していません。
諦めた理由
・今の自分の実力よりきついコースかもしれない
・体力にあまり自信がない
・転んだりケガをしないように歩けるか不安
・一緒に行く人に迷惑をかけてしまうかもしれない(例:グループでの研修など)
行けると思った理由
・同じくらいか、それ以上に難しい山に何度も登ったことがあり、道の様子や難しさをだいたい予想できる
・標高差は自分の体力で無理なくこなせる
・転んだりケガをしないように気をつけて歩ける自信がある
リスクの許容範囲は人によって違う
リスクの感じ方や許容範囲は人それぞれです。これは妊娠中に限らず、登山全般に言えることだと思います。
例えば、私のクライマーの友人は妊娠7ヶ月までフリークライミングを続けていました。でも私はそれは無理だと思い、妊娠初期からクライミングはやめました。自分にとって「少しでも不安を感じる山行」は、リスクにつながる可能性が高いと判断して諦めるようにしました。
登山経験のない人が「高尾山に登れるかな?」と不安に思うのと、経験者が「気分転換に高尾山でも歩こうかな」と気軽に考えるのとでは、同じ山でも大きな違いがあると思います。
対策2:妊娠経過を確認する
妊婦健診では、その都度、赤ちゃんの発育が順調かどうかを確認していました。私は登山の翌日に検診を入れることが多く、そのたびに「順調ですね」と言われると安心できました。
また、医師にはあらかじめ「登山ガイドの仕事をしていること」や「山が好きなこと」を伝えてあり、こまめに状況を報告するようにしていました。
対策3:気心の知れた人と登る
妊婦であることを理解し、無理のないペースで付き合ってくれる人と一緒に登山しました。夫と登ることが多かったです。
対策4:荷物を軽くする
なるべく軽量化を心掛け、登山中の負担を軽減しました。妊娠7ヶ月目以降は全ての荷物を夫に担いでもらいました。
対策5:ブランク期間に注意
体感の話になりますが、定期的に登っている方が体力の低下を抑えられて長く登山を楽しめると思いました。もちろん体調との相談で自分のペースで継続してゆくのが前提です。
いざという時に病院にすぐにかかれないリスク
まず大事なのは「お腹が張るリスク」「転倒のリスク」をできるだけ減らし、無理をせず余裕のある登山を楽しむことだと思います。そうすることで、病院にかかるような事態になる可能性を低くできると感じました。
登山は自然の中で行うアクティビティなので、リスクをゼロにすることは難しいです。日帰り登山なら、体調が悪くなった時にすぐ引き返せるため比較的安心して楽しめましたが、泊まりの登山はリスク管理が難しいと感じました。
そこで私が実践した最低限の工夫は、「日帰りでも登れる山を、1泊や2泊でのんびり歩く」ことです。1日の行動時間を2〜4時間程度に抑えると体力的にも余裕があり、精神的な安心感も大きかったです。また、エスケープルート(途中で下山できる道)が多い山や、下山までの時間が短く街に近い山域も安心材料になりました。

日本アルプスの奥地のように、一度入ってしまうと下山に1日以上かかる山域もあります。街に出るまでに何時間もかかるような場所では、毎日「自分の体調は元気かどうか」を確認しながら登ることくらいしかできませんでした。
もし体調に異常があったら、自力で下山するか、山小屋に連泊するしか方法はなかったと思います。結果的には登山中に大きな問題は起きませんでしたが、何かあった場合どうなっていたかは分かりません。
正直、妊娠中に4泊5日などの長期で奥地に入る登山はオススメできません。

私のブログにコメントをくださった方は、「携帯電波の入る山域」「山小屋の間隔が近いコース」を基準に選んでいたそうです。
色々な条件を考えると、例えば八方尾根、木曽駒カール、八甲田、立山室堂、北八ヶ岳あたりはロープウェイがあるし、アクセスがよくてすぐに下山できるので安心感あるのかなと思ったりしました。ただしロープウェイは悪天時に運休になるリスクも考慮した方が良いです。(決して推奨している訳ではなく、他の山域に比べたらまだマシという意味です。)
その他、実際登ってみての感想
標高の高い山
妊娠中に登った中で一番標高が高かったのは、妊娠4ヶ月目に登った「富士山」です。佐藤小屋(標高2,230m)で1泊し、翌日に山頂へ登って下山しました。私の場合は山頂でも息切れすることがなく、元気に歩けました。下山後の健診でも赤ちゃんの発育は順調でした。
ただし、標高が高い場所では酸素が薄くなるため、「赤ちゃんに酸素が行き渡らない → 脳への影響や発育不全につながる」リスクがあるかもしれません。
「息切れしていないから大丈夫」と思っていましたが、後から考えたらそれが本当に安全だったのかどうか、不安になりました。
調べてみると、標高2,000m前後では大きな問題はないそうですが、標高3,500mを超えると血中酸素濃度が下がり始めるといわれています。登山前に医師へ「息切れしなければ高所登山も大丈夫なのか?」「血中酸素濃度はどの程度を保つべきか?」と確認しておけばよかったと思います。登山中にパルスオキシメーターを使って酸素濃度を測るのも一つの安心材料になったかもしれません。
高温多湿の山
何度か夏の午前中に、家の近所の里山に2〜3時間ほどのハイキングに出かけましたが、キツかったです。新潟特有の高温・多湿な環境で、すぐに疲れてしまいました。むしろ標高の高い山よりも息が上がりやすく、かなりゆっくり歩きました。
妊婦になると暑さに対する耐性が低くなる気がします。日差しが強いと結構しんどいです。
涼しい山・快適な時期を選んで登ったほうが良いです。(10月に入ってからは新潟の低山も涼しくなり快適に楽しむことができました。)
↓キツかった山
おすすめの本
『岳人』2007年10月号 No.724
特集で妊娠中の登山についてアンケート結果がまとめられています。私と同様に適度に楽しんでいる方が多かったですが、中には無理して入院してしまったというお話もありました。読める機会があればぜひ手にとってみてください。

終わりに
あくまでも備忘録、ということで実体験をまとめてみました。
冒頭にも書いたように、一番大事なのは「自分の体調としっかり向き合う」ことだと思います。身体が疲れているのに、「行きたい!行きたい!」という気持ちだけで無理して登るのは絶対にやめたほうが良いと思います。
私は妊娠中に結構登山を楽しんだ方だと思いますが、臨月に入ってからは一切登っていません。お腹がパンパンになり張りやすくなったので、「こんな身体で登るなんて無理ー。」としか思えませんでした。あとは、運動すると早く生まれるというジンクスがありますが、私はなるべく予定日に近い日に産みたい気持ちがあり大人しくしていました。笑(結果的に予定日の2日前に産まれました。)
臨月でも元気にハイキング行っていた山仲間たちはすごいと思います。
また、緊急時の入院に備えて、妊婦保険に入っておくのも手だと思います。(自治体によっては妊娠中の自己負担の保険診療を全額負担してくれる場合もあります。)
あくまでも自己責任になってしまいますが、私は私なりに登山を(ガイド業を含めて)楽しめてよかったなと思いました。
妊娠中に登った山一覧
合計79日
妊娠月数 | 出産予定日まで | 日付 | 種類 | 行先 | 日数 |
---|---|---|---|---|---|
1ヶ月 (0週1日) | 279日 | 2024/05/21 | 検定・講習 | 尾瀬ヶ原 | 1 |
1ヶ月 (0週2日) | 278日 | 2024/05/22-23 | 沢登り | 会越周遊 蒲生川〜室谷川 | 2 |
1ヶ月 (0週5日) | 275日 | 2024/05/25-27 | 縦走 | 谷川主稜線 | 3 |
1ヶ月 (1週3日) | 270日 | 2024/05/30 | ハイキング | 浅草岳 | 1 |
1ヶ月 (1週4日) | 269日 | 2024/05/31 | ハイキング | 尾瀬ヶ原 | 1 |
1ヶ月 (1週5日) | 268日 | 2024/06/01 | PH | 巻機山 | 1 |
1ヶ月 (2週0日) | 266日 | 2024/06/03-04 | PH | 巻機山 | 2 |
1ヶ月 (2週2日) | 264日 | 2024/06/05 | ハイキング | 尾瀬ヶ原 | 1 |
1ヶ月 (2週4日) | 262日 | 2024/06/07 | ハイキング | 尾瀬ヶ原 | 1 |
1ヶ月 (2週5日) | 261日 | 2024/06/08-09 | PH | 巻機山 | 2 |
1ヶ月 (3週2日) | 257日 | 2024/06/12-14 | ハイキング | 尾瀬ヶ原 | 3 |
1ヶ月 (3週6日) | 253日 | 2024/06/16 | ハイキング | 黒姫山 | 1 |
2ヶ月 (4週0日) | 252日 | 2024/06/17 | PH | グシガハナ〜越後駒ヶ岳 | 1 |
2ヶ月 (4週2日) | 250日 | 2024/06/19-20 | 沢登り | 2 | |
2ヶ月 (4週5日) | 247日 | 2024/06/22 | 沢登り | 村杉半島 只見川白沢~岡沢 | 1 |
2ヶ月 (5週0日) | 245日 | 2024/06/24-26 | PH | 北岳 | 3 |
2ヶ月 (5週4日) | 241日 | 2024/06/28-30 | 縦走 | 谷川連峰馬蹄形縦走 | 3 |
2ヶ月 (6週5日) | 233日 | 2024/07/06-07 | PH | 門内岳 | 2 |
3ヶ月 (8週6日) | 218日 | 2024/07/21-23 | PH | 苗場山 | 3 |
3ヶ月 (10週0日) | 210日 | 2024/07/29 | 沢登り | 姥沢川 南ノ入り沢右俣 | 1 |
3ヶ月 (10週4日) | 206日 | 2024/08/02-03 | 沢登り | 楢俣川後深沢~至仏山〜狩小屋沢 | 2 |
3ヶ月 (11週4日) | 199日 | 2024/08/09 | ハイキング | 坂戸山 | 1 |
4ヶ月 (12週2日) | 194日 | 2024/08/14-15 | PH | 富士山 | 2 |
4ヶ月 (12週6日) | 190日 | 2024/08/18-21 | 縦走 | 高天原&雲ノ平 | 4 |
4ヶ月 (14週5日) | 177日 | 2024/08/31 | ハイキング | 魚沼アルプス 駒の頭〜トヤの頭 | 1 |
4ヶ月 (14週6日) | 176日 | 2024/09/01 | 沢登り | 三国川黒又沢日向沢 | 1 |
4ヶ月 (15週2日) | 173日 | 2024/09/04-08 | 縦走 | 聖岳&光岳 | 5 |
5ヶ月 (16週2日) | 166日 | 2024/09/11-12 | 縦走 | 悪沢岳〜中岳避難小屋 | 2 |
5ヶ月 (17週1日) | 160日 | 2024/09/17-18 | 縦走 | 小河内岳避難小屋 | 2 |
5ヶ月 (17週4日) | 157日 | 2024/09/20 | ハイキング | 六万騎山 | 1 |
5ヶ月 (18週1日) | 153日 | 2024/09/24-25 | 沢登り | 叶津川 餅井戸沢フンギリ沢 | 2 |
5ヶ月 (19週3日) | 144日 | 2024/10/03-04 | PH | 越後駒ヶ岳 | 2 |
5ヶ月 (19週6日) | 141日 | 2024/10/06-08 | PH | 平ヶ岳&越後駒ヶ岳 | 2 |
6ヶ月 (20週5日) | 135日 | 2024/10/12-14 | PH | 苗場山 | 3 |
6ヶ月 (21週4日) | 129日 | 2024/10/18 | PH | 八海山 新開道往復 | 1 |
6ヶ月 (22週5日) | 121日 | 2024/10/26 | 沢登り | 巻機山天狗岩下部スラブ〜三嵓沢 | 1 |
6ヶ月 (22週6日) | 120日 | 2024/10/27 | PH | 金城山 水無〜滝入 | 1 |
6ヶ月 (23週4日) | 115日 | 2024/11/01 | ハイキング | 親柄薬師山 | 1 |
6ヶ月 (23週6日) | 113日 | 2024/11/03 | ハイキング | キノコキャンプ | 1 |
7ヶ月 (24週0日) | 112日 | 2024/11/04 | PH | 下権現堂山〜上権現堂山 | 1 |
7ヶ月 (24週5日) | 107日 | 2024/11/09 | ハイキング | 御嶽山(魚沼市) | 0 |
7ヶ月 (24週5日) | 107日 | 2024/11/09 | ハイキング | 駒見山〜あいの峰〜房ヶ沢山 | 1 |
7ヶ月 (25週3日) | 102日 | 2024/11/14 | ハイキング | 古峰山 | 1 |
7ヶ月 (25週6日) | 99日 | 2024/11/17 | ハイキング | 愛宕山(塩沢) | 1 |
9ヶ月 (32週2日) | 54日 | 2025/01/01 | ハイキング | あいの峰~駒見山~藤権現 | 1 |
9ヶ月 (33週0日) | 49日 | 2025/01/06 | ハイキング | 俎板平城跡(薬師堂まで) | 1 |
9ヶ月 (34週3日) | 39日 | 2025/01/16 | ハイキング | 坊谷山 | 1 |
9ヶ月 (34週6日) | 36日 | 2025/01/19 | ハイキング | 愛宕山(塩沢) | 1 |
10ヶ月 (36週0日) | 28日 | 2025/01/27 | ハイキング | 親柄薬師山 | 1 |