2021年5月3日(月) 晴れのち雪
5:50 大平宿 – 8:30 摺古木自然園休憩舎 – 11:35 摺古木山 – 13:30 白ビソ山 – 14:20 安平路山避難小屋 (合計時間 : 8h30m)
2021年5月4日(火) 晴れ
4:10 安平路山避難小屋 – 5:05 安平路山 – 9:15 奥念丈岳 – 11:00 念丈岳 – 14:00 烏帽子岳 – 16:40 小八郎岳 – 17:25 鳩打峠 – 19:15 上片桐駅 (合計時間 : 15h05m)
上片桐駅 – (電車330円) – 飯田駅 – (タクシー約7,500円) – 大平宿
距離 : 34.9km 累計高度(+) : 2,511m 累計高度(-) : 3,049m
天 気 図
※5月3日は14時過ぎより、上空に残る寒気の影響で天候悪化。数時間降雪あり。
今年のゴールデンウィークはなかなか天気がよろしくない。
当初は南会津での長期縦走を画策していたが断念。
その後新潟群馬辺りでの登山を狙っていたが、それも天気予報がイマイチで断念。
転身に転身を重ね、新潟の当間山や六万騎山から約260kmの大移動を経て中央アルプスへ。
安平路山は、私が登山を初めてからいつかは登りたいと思っていた一座である。
4年越しの夢がようやく叶った。
そういえば山仲間のKさんと初めて一緒に登った山は、南信州の「大川入山」だ。(旧ブログ)
当時、安平路山が見えた時にKさんに「あの山へ登るのが夢。」と話したことがある。
そのことをKさんは今まで覚えてくれていたようで、それがちょっと嬉しかったりもした。
長い峠道をひたすら運転し、大平宿(おおだいらじゅく)へと至る。
標高1,150m、電波は通じない。こんな山奥に以前は集落があったというのだから驚きだ。
車を駐車し、摺古木山へ向けて歩き始める。
摺古木山登山口のゲートまでは車が入れそうだったが、帰りに拾う予定のタクシーが林道を登ってくれるかも分からないので大平宿から歩くことにした。
ゲートまで約2.7km、そこからさらに4.5kmの林道を登っていく。
前日の降雪のためか、林道には次第に積雪が見られるようになった。
だいぶ悪いダート道だが、道には轍の跡。
この上の摺古木自然園休憩舎まで、一部の車は入れるようだ。
いよいよ標高を上げていくと、雪は深くなる。これはもうスタッドレス・4駆でなければ進めなさそうだ。
空には青空が広がり、木々の向こうに見える山々には美しい霧氷が張り付いている。
小鳥のさえずりが賑やかに聞こえ、残雪期らしい明るい雰囲気だ。
林道脇を流れる沢は美しい清流で、いつか沢登りでも訪れてみたいと思った。
8:30摺古木自然園休憩舎到着。
大平宿からひたすら続いた轍の主は、この場所で駐車したようだ。
よくもこんな悪い道を突き進んできたものだ。
登山道には新雪がスネ程の高さまで積もっている。
既にトレースがあり、私たちもその後を登っていく。
ひと登りすると、トラバースが続く。
アップダウンはないが、沢や崩落地の横断は神経をつかった。
道中、1人の登山者に追い越される。足元はトレランシューズだ。
さすが地元民は慣れてるなぁと感心。
その人はあっという間に見えなくなってしまった。
その後、摺古木山まで行ってきたという男性とすれ違う。
チェーンスパイクだと厳しいので安平路山まで行かず引き返してきたとのことだった。
やがて分岐道に至る。
せっかくなので摺古木山周遊ルートを歩くことにした。
引き続きトラバースを経て、やがて少しの登りのあとにいよいよ稜線に上がった。
稜線は、クマザサや石楠花に覆われている。
昇温で雪が溶けたのか、笹が濡れていたので慌ててカッパを着用した。
「周遊ルート」なんて楽しそうな名前だったのでついこちらを選択してしまったが、単に藪漕ぎが増えてしまっただけだった。
稜線でも2人の登山者とすれ違う。ヘルメット・カラビナ・スリング、となんだか物々しい雰囲気を放っていたので気になってどこを歩いてきたのか尋ねてみた。
昨日、安平路山避難小屋に泊まったが、雪が悪いので安平路山までいかず引き返してきたとのことだった。
なんと、この人も安平路山撤退なのか。
話を聞くと、ラッセルが深い訳ではないようだ。アイゼン持っているなら大丈夫だと思う?
一体全体、稜線はどんな状況なのか。謎は深まるばかりである。
この2人も足元はチェーンスパイク。
それは構わないのだが、ヘルメットやビナ類を持ってくるならまずはアイゼンだろ・・・。と思ってしまったのは内緒の話である。
私がトイレで道を外れている間にKさん先行。
そのうちにKさんに追いついたら、朝追い越されたトレランの人に会ったという話をきいた。
摺古木山の場所が分からなくて引き返してきたらしい。
場所を聞かれて答えたら、再び進んでいったそうだ。
てっきり慣れた地元民だと思っていたがそうではなかったのか。
Kさんと共に摺古木山分岐点へ至る。
するとちょうどトレランの方が分岐から摺古木山とは正反対の方向に向かって藪をかき分けていく背中が見えた。
え?しばし思考停止。
Kさんに「あれさすがにヤバくない?声かけたほうがいいんじゃない?」と困惑気味に尋ねる。
Kさんが「あの!」と声をかけて、「そちらから下山されるんですか?」と尋ねる。
トレランの方は「摺古木山へ行くつもりです。」と答えた。Kさんが「摺古木山はあっちのピークの向こうです。少し手前に赤テープと分岐あります。」と再び場所を説明した。
その後、一人でぶつぶつ何か呟いたと思ったらピューとあっという間に摺古木山方面に消えてしまった。
Kさんが「あの人大丈夫かなぁ」と言ってきたので「いやどう見ても大丈夫じゃないでしょ。」と突っ込んでしまった。
もし私たちがいなかったらどうしてたのだろう。と思ったが、当初は山頂が分からなくて「引き返してきた」ところだったので、私たちがいなかったらいなかったで山頂へ行かずに帰っていただけかもしれない。
それでも、側から見ているとだいぶ危なっかしいなぁと感じてしまった。
ただ私も同じ登山者である。道迷い遭難は他人事ではないので自身も気をつけようと思った。
私たちも軽く藪を漕ぎつつ、摺古木山へ到着した。
山頂には誰もいない。安平路山方面にはトレースが伸びていた。
ここからは比較的なだらかな稜線が続く。
午後14時過ぎから降雪予報なので、それまでに安平路山の避難小屋にするのが理想だ。
先行するトレースは、時々寄り道をする。
ちょこっと着いていくと、その先には山々の展望が広がっている。
この足跡の主は、感動しながら、カメラのシャッターを押したに違いない。
そんな想像を膨らませて、心がほっこりした。
「展望トレース」を追いかけるたびに、同じルートを歩いたその人と感動を共有しているような気持ちになった。
新雪は浅く、ラッセルという程でもない。
尾根は広く、時折吹き溜りの雪が凍っている以外は概ね歩きやすい。
ツボ足でも問題なく進むことができた。
針葉樹の尾根道は藪が薄く、順調だ。
道中、1人の単独男性とすれ違う。
安平路山を往復してきたようだ。早い!とびっくり。
この方も足元がチェーンスパイクだ。
今のところ出会った方々のチェーンスパイク装着率が100%だ。
14:20安平路山避難小屋到着。
15時過ぎから、本格的な降雪が始まった。
雪景色を小屋の窓から眺めながら、Kさんと「酷くなる前に着いて良かったね。」と話す。
今年のゴールデンウィークは天候の急変、擬似荒天と騙しの天候が多い。
他の山域での遭難を心配する一方で、私たち自身も気を引き締めて、明日は無事下山しなければいけない。
17時前には就寝。小屋内で暖かく快適な一夜を過ごす。
翌朝は3時過ぎに起床。
空がぼんやりと明るくなり始めた4時過ぎに登山開始。
朝早く、雪が硬そうなのでアイゼンを装着した。
針葉樹林の白く美しい森の中を進む。
ここら一帯の標高は2,100mを越えている。
それでも周りの木々の身長は高く、展望はあまり望めない。
最近歩いた新潟の川内山塊、五剣谷岳の標高は1,188mである。
安平路山より1,000m以上も低いというのに、稜線の木々や藪は冬になると雪の下に沈み、稜線からは遥かなる山々の展望を見渡せる。
つくづく、山って面白いなぁと感じてしまう。
標高、地形、地質、場所、植生、様々な要素が絡み合って、1つの山や取り巻く環境を形成している。
1つとして同じ山はなく、それぞれの山が個性的な魅力を放っている。
多くの山を歩けば歩くほど、その1つ1つの違いが分かるようになってくるので、とても楽しい。
避難小屋から1時間程で安平路山に到着した。
積雪深は40〜50cm程だろうか。
山頂付近に自生しているクマザサは埋まっており、すっきりとした山頂になっていた。
安平路山も相変わらずの樹林帯で展望なし。
ついに、中央アルプスの奥地に辿り着いた。
木々に囲まれた深い山の中で、思い切り息を吸い込んだ。
ずっと憧れ続けていた山へ登ることができてとても嬉しい。
安平路山の北側斜面を降り、奥念丈岳へ向けて出発。
人のトレースは無くなり、目前にあるのは野ウサギの自由な足跡のみ。
純粋な雪山が目前に広がる。やっぱりノートレースは素晴らしい。
自分自身の野暮な足跡を後ろに残しながら、目前の風景を楽しむ。
そのうちに、右手に太陽の光でぼんやりと照らされた南アルプスが見えた。
1つ1つが大きく、どっしりと雄大だ。
御嶽山や乗鞍岳、続く中央アルプスの峰々を眺めながら、歩みを進める。
中央アルプスの何が良いかって、360度、北アルプスや南アルプスを始めとした中部の名だたる山々を一望出来ることだろう。日本アルプスの中央に位置するからこその素晴らしい展望。
私が5年前に初めてのテント泊で中央アルプスを訪れた時も、この展望に感動したものだ。(当時の記録)
そんなことを考えていたら、Kさんも全く同じことを私に言ってきた。
やっぱり皆、そう思っているのだろう。中央アルプスはまさに日本アルプスの展望台だ。
ピーク2,259m(浦川山)の北にあるコルに近づくにつれ、雪が減りクマザサが現れ始めた。
目前に立ちはだかる次なるピーク2,239m(袴腰山)の登りは見るからに藪が深そうだ。
嫌な予感は的中し、クマザサの深い藪に入ってゆく。
先ほどよりアイゼンがクマザサに引っかかり鬱陶しかったので、ツボ足になり改めて出発。
所々、逃げ場のない密藪に入ってしまうが、クマザサの倒れている場所や、雪が多く堆積している場所を狙って高度を稼いでゆく。
足元に多少積雪が残っているお陰か、背の丈以上の藪に覆われることがなかったのは幸いだった。
そのうちに踏み跡が出現しルーファイに困らなくなるが、両サイドの藪が雪の重みで沈み込み、踏み跡を塞いでいる。
藪の雪を払い除けてから、左右に掻き分けて進む。
手間が一つ増えた分、ここは無雪期以上に手間のかかる場所だった。
南アルプスや中央アルプスのクマザサは柔らかいので、雪国の硬い藪よりはマシ!と思っていたが、やはり藪は藪。まるで楽ではない。
(参考:東北 南八甲田 黄瀬川・・・駒ヶ峯〜分岐間。破線ルートなのに強烈な藪漕ぎを強いられる。)
ようやく袴腰山に到着してひと息。
結果的にも今回の山行での核心ともいえる場所だった。
その後も雪を繋げられればラッキー、大半は藪漕ぎ。
奥念丈岳の登りで再び藪が濃くなるが、袴腰岳の登りに比べれば踏み跡もはっきりしており、比較的楽に登ることができた。
9:15奥念丈岳到着。
南アルプスの素晴らしい展望は相変わらず続いている。
奥念丈岳の稜線を北へ辿ると、越百山へと続いている。コスモ、なんてカッコ良い名前だ。
今回は残念ながら寄り道する余裕が無いが、いつかあちらへも登ってみたい。
しばし休憩を挟み、鳩打峠に向けて出発。
ここからは踏み跡もより分かりやすくなり、少しはホッと安心出来る。
再び人間のトレースも現れた。
しかし続く稜線にはまだポコポコと多数のピークが存在する。
まだ先は長い。気は抜けない。
積雪はほとんど無くなった。時折足裏にくっつく雪団子を落としながら進んでいく。
与田切乗越への降りを経て、念丈岳へと登り返す。
振り返ると、今まで歩いてきた稜線が一望できた。
念丈岳分岐に到着し、ザックをデポして念丈岳へ。
山頂では単独の男性が1人、のんびりと休憩していた。
念丈岳は360度ぐるりと展望が広がっていた。
てっきり南部らしくボサい展望だと思っていたのだが、花崗岩も目立つようになり雰囲気は北部寄りだ。
鳩打峠から往復するとおおよそ11時間、健脚コースではあるが、展望良く日帰りハイキングも楽しそうだ。
しばし展望を楽しみ、下山に取り掛かる。
念丈岳から鳩打峠までは、一般登山道が伸びている。
ようやく藪漕ぎから解放されたが、相変わらず藪っぽい道は続く。
進んでゆくと、これまたトレランシューズ&チェーンスパイクの3人組とすれ違った。
こんな雪山でローカットなんて、足が濡れるのは気にならないのだろうか?
見た感じ、まるで問題なさそうな感じだった。
この3人組には、この後池ノ平山で再び追い抜かされた。
その時に、私たちのルートを尋ねられて、帰りはどうするのかと質問された。
上片桐駅まで歩くと答えたら「健脚ですごいねぇ〜!」なんて言われてしまった。
いやいや、あなた方のほうがよっぽど健脚ですってば!
ポコポコとアップダウンの続く登山道、ただ、ひたすら長い。
Kさんと2人ヒイコラいいながら歩みを進める。
14:00烏帽子岳到着。
こちらの山頂からも素晴らしい眺め。
烏帽子岳のみ往復する登山者も多いようで、私たちが1つ手前のピークにいる時に、山頂で楽しむ登山者の姿が見えた。
烏帽子岳からの下りはなかなか険しい。
必死に降って、GPSをチロっと確認したが、まだ全然進めていなかったことに絶望した。
まだまだ先は長い。本当に長い。
ひたすら、歩みを進める。
寄り道した小八郎岳のピークも南アルプスの展望が見事だった。
なんなら、今回の山で一番眺望が良いんじゃないかってくらい。
17:25鳩打峠到着。
ヤブ蚊の襲撃が凄まじく、のんびり休んでいる暇もない。
雪山登山靴からクロックスに履き替え、改めて出発。
日没はもう近いが、あたりはまだぼんやりと明るい。
そのうちにかなり冷えてきたので上着を1枚着込む。
約6kmの車道歩きをこなし、ようやく上片桐駅に到着した。
飯田駅へと移動し、タクシーを拾い、車の待つ大平宿へ到着した頃には22時だった。
長い長い山行、無事に終わった。
たくさん歩いた、濃い2日間だった。
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