槍・穂高・常念 無雪期特殊

晩秋の北アルプス 燕岳〜蝶ヶ岳〜徳本峠〜霞沢岳2/2

前回からの続き。

常念岳

3日目の朝。6:45常念乗越を出発する。
風が結構強い。バラクラバ、グローブ、ニットを装備する。
その場で停止していると、寒いくらいだ。
標高を上げて行く程に雪のついている箇所も増えてきた。
適当な場所でアイゼンを装着する。
西側で日の当たらない場所は凍結している部分もあった。
風の強さといい、もはや、晩秋から突然厳冬期の稜線にワープしたような気持ちになった。
雪面は、クラストしてテカテカしている。
冬山装備をしっかり持ってきていて良かった。
同時に、待ちわびた雪山シーズンに突入した事を実感して嬉しくなった。

8:50、常念乗越から2時間程かかってやっと山頂に到着した。

常念山脈の縦走路

山頂で景色を堪能し、9:30蝶ヶ岳に向けて縦走を再開する。
常念岳の南面からは、一切雪がなくなっていた。
再び秋の山にワープした。
雰囲気があまりにも違うので、少し驚いた。
ここから先は、アイゼンも二度と使わないだろう。

私にとっては初めての常念山脈縦走である。
正直、とても感動した。
めちゃめちゃ景色が良い!!!!!!
槍ヶ岳に見守られながら歩みを進める。

しかし、既に本日の体力は常念の登りで大半を使い果たしてしまったようだ。
肩に食い込むザックも、相変わらず痛い。
何度も立ち止まり、水分を補給しながら進む。

途中で、一人の男性Iさんと出会う。
色々と事情があり、この後、少しだけ行動を共にした。
Iさんとは、今でもたまに連絡を取り合う。私にとってはすっかりお父さんのような存在だ。

かなりのスローペース。蝶槍を越えてからは、比較的なだらかな稜線歩きになるが、ペースが上がらない。肩が痛くて、やっぱり一休みの回数が増えてしまう。

蝶ヶ岳ヒュッテ避難小屋

14:10、やっとのことで蝶ヶ岳ヒュッテ避難小屋に到着した。
中を覗くと誰も居ない。そして非常に綺麗だ。
いつかは泊まりたいと思っていたこの避難小屋、ついに泊まれる日が来てワクワクする。
どうやら今シーズンの宿泊は私たちが一番乗りのようだ。まっさらな避難小屋ノートにメッセージを書き残しておいた。

一緒に歩いていたIさんが、私が女性である事に気を遣ってくれたのか、「私はツェルトで外で寝ますね。」と言ってきた。(IさんはUL派なのでテントを使っていない)
流石に、標高2,600mの稜線で風もそこそこ強い中、外で寝かせるのは申し訳ないと思い、「気にしないので大丈夫ですよ。」と答えた。

荷物をデポして、蝶ヶ岳の山頂へ向かう。
私が蝶ヶ岳のピークを踏んだのはこれで3回目になる。
幸いなことに、その全てが好天であり、そして今日も私の目前には素晴らしい槍穂の展望が広がる。
私の好きな前穂高岳もバッチリ見える。北尾根や東壁も勇ましい。
感動した。ここまで頑張って歩いてきて良かった。
その後、避難小屋の近くで夕闇に染まってゆく北アルプスの峰々を、Iさんと一緒に眺めた。

翌朝、薄暗い避難小屋の中でいそいそと荷造りをしていると、一足先に支度を済ませて外へ出ていたIさんに呼ばれる。「荷物をまとめている場合じゃないよ!早く外に出てきて!」
何事かと出てみると、そこには朝日に照らされた北アルプスの山々が広がっている。
「さっきはもう少し赤かったよ。」
ベストタイミングを少し逃してしまったようだ。
しかし、その景色はとても美しかった。

ふとIさんの横顔を見ると、心の底から嬉しそうに、笑顔を浮かべている。
Iさんは、山の楽しみ方をちゃんと知っている人なんだな。と思った。
もし、Iさんが呼んでくれなければ、私はこの瞬間を逃していたことだろう。
呼んでくれたことにお礼を伝えた。

6:50、大滝山に向けて出発。
Iさんとはここでお別れだ。Iさんは上高地へ下山するとの事。
昨日から色々な話が出来て楽しかった。Iさんの晩ご飯、朝ご飯をちゃっかりいただいてしまい、挙げ句の果てに行動食まで貰ってしまった。(まるで私が山賊のようだ。)
今の私にとって命の次に大切な「水」を、Iさんが「私のを持っていきますか?」とまで言ってくれた。
しかし、そこまで頼ってしまっては、なんだか駄目な気がして、「水」だけはお断りした。
それでもIさんのその気持ちはとてもありがたかった。

振り返り、手を振って、大滝山へ足を進める。

残りの日数は、今日を含めて2日。
まだまだ先の長い旅を、噛み締めていかなければならない。

大滝山から徳本峠へ

静かで、樹林帯の中をひたすら進んでいく。木々の匂いが心地よい。
森林限界を抜けると、猛烈な風が吹き付ける。あまりにも凄まじく、呼吸困難になる。
幸いにも両サイドはハイマツだ。時折、背の高いハイマツの影にしゃがみこんで一息入れる。
目の前のハイマツの枝に小さな鈴がくっついていた。
先ほどから、時折「チリンチリン」と微かな鈴の音が聞こえてきたが、どうやらこれが正体のようだ。
また強風でハイマツが揺れ、鈴が鳴る。穏やかなその音に心が暖かくなる。
ザレていてハイマツの無い場所は四つんばいになって進む。
空はピーカン。山は晩秋の装い。しかし風だけは一丁前に厳冬期並だ。
以前2月に登った乗鞍岳もこんな感じだったなと、ふと思い出す。
どうにか大滝山の山頂に到着した。

大滝山から徳本峠までは長い長い樹林帯。

途中の展望台から前穂高岳の東壁を眺め、一気に降る。

徳本峠

13:00徳本峠に到着。
小屋は閉まっており、人の気配はまるで無い。
開けたスペースにテントを設置し、合計1時間半程かけて水を汲みにいく。
途中、電波を入れてみたらかろうじて入ったので、家族に近況報告のメールを入れておく。

ジャンジャンと流れる沢の水。雪で作った水を捨てて、新たに汲む。
まずは、飲む。美味しい。とても美味しい。
ついつい、沢に向かって「ありがとうございます。いただきました。」と声が出てしまう。
私は単独で歩いていると、そのうち周りの木々や花、沢に向かって話しかけてしまう事がしばしばある・・・。
ただ、今回は本当に山の恵に感謝したから声を出さずにはいられなかった。
(誰も見ていないし。)
新鮮な水が不自由なく飲めることのありがたさを身にしみて実感する。
後ろを振り向くと、明神岳がこちらを見ているような気になってくる。
帽子を脱いで、明神岳と黒沢の源頭部に、改めてお礼とお辞儀をする。
山の恵によって少し重くなったザックを背負って、テントに帰る。

霞沢岳

翌日、5:00過ぎに出発。
晩秋の北アルプス。日の出の時間までまだしばらくある。
ふと気配を感じて見上げると、木の上に白いゴミ袋のような物が。

よく見るとフクロウだった。首をクリクリさせてこちらをジッと見ている。
フクロウを見るのは初めてだったので、つい写真を撮ってしまう。
フラッシュはたかなかったが、しばらくヘッドライトでフクロウを照らしてしまった。
そのうちにフクロウは音もなく羽を広げ、静かに飛び去ってしまった。
申し訳ないことをしてしまった・・・。

夜の樹林帯。徳本峠の森は少し怖い。
木々の隙間が広く、何かが潜んでいそうな気配。
先ほどのフクロウを見て、山の「昼」と「夜」はまるで違う世界なのだと思った。
虫も鳴かない無音の世界だが、きっと夜の生き物たちはそこかしこに潜んでいて、ジッと私を見下ろしているのだろう。

ジャンクションにて日の出を迎える。小鳥がさえずり、風が吹き始め、山の「昼」が始まった。
私も「昼」の世界の人間だから、太陽がちゃんと昇ってくれたことに安心した。

初めての霞沢岳。想像よりもハードコースだということを思い知らされた。

アップダウンを繰り返し、ザレた急傾斜の鎖場を越えた先はK1という場所だ。
K1から北に進めば六百山に繋がる。上高地からもよく見える山。
密かに気になっている山の1つだったが、その稜線は非常に脆そうだった。

K1からさらに片道30分。ちょうど9:00に霞沢岳のピークに到着した。

ピークからは北アルプス南部をはじめとした山々の展望が広がる。

休憩を挟み、下山を開始する。
道中、人生初のアミノバイタルを補給。その効果に驚く、しばらくは体が覚醒したかのように軽くなった。
アミノバイタルの使用用途、疲れた身体を回復させるための薬か?動かない身体にムチを打ち無理やり動かす為の薬なのか?どちらの表現が正しいのかは不明である。

下山

12:00、徳本峠に下山。手早くテントを撤収し、上高地へ向けて下山を開始する。
これからの行程、霞沢岳の道中で迷っていた。
結論としては、小梨平で風呂に入り、小梨平スーパーで新鮮な肉を買い、少しだけ豪華な夕飯を食べる。そして明日の朝イチで下山しよう。そう決めた。
小梨平の風呂に入れることをワクワクしながら、峠から降る。
下山した上高地はちらほらと観光客がいたものの、夏の全盛期に比べるとかなりガラガラだった。
そして待望の小梨平に到着して、呆然。
全て、今年の営業を終了している・・・。
悲しくて仕方がなかった。
ネットの情報だと、まだ営業している風な感じに記載されていた。
仕方が無いので、5日間風呂に入っていないが、そのまま家まで帰宅することにした。
道中、温泉や食事処によりたいところだが、公共交通機関のうえ、荷物も重たいので、直行直帰とした。
家に帰り、シャワーを浴びた後、近所のスーパーに向かう。
半額シールの貼られたカツオ・ブリの刺身を購入して、家で食べた。

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